第26話 暴走する感情
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「あのさ」
顔を隠していた手を下ろし、浅く座っていた腰をギシッと深く沈めた桜城さんがまっすぐに私の目を見る。
私はゴクンと息を呑んだ。
そうしたら、思ったよりその音が響いて自分でびっくりした。
「っ///」
「っはは」
「桜城さんがっ・・・」
カッコイイから、とか何を言おうとしたんだ私。
止まった私の口、グッジョブ!
なのに!
「俺が、どうかした?」
「そこは突っ込まないで下さいよ・・・」
自分でも自分の思考にあわあわしてるところなのに。
「いや、俺より緊張してるから(笑)」
「だって部長が急に真顔になるから・・っ」
「また部長って言った。俺ね、薫に部長って言われたくないんだよね」
桜城さんが苦笑して。
そして次の瞬間。
「あ、っの・・っ///」
すっ、と耳の上から手を入れられて、そのまま腕の中に閉じ込められて、焦る。
「いいからもう、このまま聞いてて」
首の後ろに桜城さんの手の熱を感じて声なんか出せなくなって、ただ俯いてコクコク頷く。
「お前の緊張移って心拍数半端ねえし。ったく」
ボソッとした声が聞こえて、肩口に押さえつけられた耳に意識を集中させれば微かに聞こえてくる心音はドクドクドクドク凄く速い。
その音を聞いて私は、いつ何時でも何があっても落ち着いてベストな対応をしてみせる桜城さんも緊張するんだ・・・。なんて事を感じて少しだけ落ち着いてくる。
腕の中にいるドキドキは全然治まってはくれないけれど、そんな事を考えられるくらいには脳みそが復活した、気がする。
でもそれは。
「はあ、もう・・・。
こっ恥ずかしい事いっぱい言ったけどさ。
つまりは俺、薫の事が好きなんだよね。
可愛い部下ってだけじゃなくて、一人の女として」
少しの期待が現実になった事で、私の思考はまた奪われてしまった。
グッと両手が肩を掴み、抱きしめられていた体が離され視線が絡む。
けれど私の視界はゆらゆら揺らめいて桜城さんの顔がよく見えない。
ぼろっと落ちた雫は、大きな手のひらが拭ってくれた。
「・・・涙の意味って、聞いてもいい?」
「・・んなの、わか、な・・っ」
ただ、感情が暴走して。
何時までたっても止まらない涙に桜城さんは苦笑しながら「・・じゃあ、嫌だった?」と続けて
「そんな事・・っ」
私がぶんぶん首を横に振ると
「そっか」
そう言って優しく微笑んだ。
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