第24話 マットなネイルは波風予防



桜城さんの話を聞けば聞く程、周りで騒いでた女子達に対して腹が立ってくる。


「今まで俺の前に立つ女ってのは、顔に寄ってくるだけあって外見ばっか気にして

その爪でキーボード打てんの?ってくらいなっがい爪にキラキラの石とか付いたマニキュアで

ここどこだと思ってんだよってのが多かったんだけど」


確かに、この見栄えのする人の隣に立つ気概があるくらいの人だから外見には自信があったんだろう。

けど、顔だけが好きならただミーハーしてるだけにして欲しい。それ以上近づかないでって思う。

基本優しい人だから勘違いしちゃう人の気持ちも分からないでもない。

落とした書類を拾うついでに、にっこり笑って「気をつけて」なんて言われた日には

誰だって付いて行きたくなる。

だろうけど!!

でもそれで桜城さんが後々傷つくなら、自分が盾になってでも守ってあげたいと、今なら強く思う。

この人は多局面から物事を考える人だから、寄ってきた子達をヘタに傷つけて万が一にも会社を辞められたら他の部署にも迷惑が掛かる、とかそんな事まで考えて

邪険に出来なかったんだと思う。

でも、仕事に求めるクオリティーは誰より高い人だから。

そこを求められた彼女達が、自分のスキルの低さを棚に上げて『思ってたのと違う』なんて頭の悪さ全開の捨て台詞で去って行ったんだ。


「そんな中でさ、薫だけは違ってて。

派手じゃなけどちゃんと綺麗にしてて、逆に目を引いたんだ」


この支社は工場併設で、工場の人はネイルやアクセが禁止されている。

工場とは完全に仕切られてて普段はあんまり関わる事はないけど、食堂だけは一緒。

そこであんまり派手にしてると女性作業者から睨まれるって事もあり、事務方の女子も本社の人みたいに派手にしてる人はいない。

・・・というのは後で言うことにした方がいいのかなと、さっき脱線した事を思い出して苦笑した。

まだ桜城さんの話は続く。


「さっきも言ったけど、薫は俺がどんなに厳しくしても強めに注意しても不貞腐れないで付いてきて反省して次に活かしてくるし。

俺は自分が仕事人間だって事は自覚してるけど、さすがに周りにいるヤツに同じレベルまでは求めないよ?普通に訊かれたら教えるし。

でも薫はちゃんと出来るとこまでは自分で頑張って、どうしても無理なとこだけ悔しそうに俺に訊きにくるじゃん。経験値が違うんだから知識の差があるなんて当たり前なのにさ。

もうそんなの、可愛いと思っても不思議はないよね」


ふ・・と見つめられて、一瞬、息をするのを忘れた。



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