第23話 『話』



パサパサと私の髪の毛を弄ぶ桜城さんはとても楽しそう。

でも、されてる私の心臓はありえないくらい早鐘を打っていて、これ以上されてたら倒れてしまいそう。

なのに、ふっかふかのソファの奥深くに腰掛けてしまった所為で、逃げる事も出来ない。


「あの・・桜城さん?」

「んー?」

「話、するんじゃ・・・」

「ああ・・・なんかもういいかなって思っちゃってるけど(笑)」

「・・・途中にされると、私の方が気になります」

「あー・・そっか(笑)」

「はい」


サラサラ、サラサラ。

私の髪を梳いて落としてはまた梳いて。

なんだかやたらと優しい顔で見られてるのに耐えられなくなって声を掛けると、最後に、落ちた髪を耳に掛けられて手が離れていく。


「じゃあ、話、しようか」

「はい・・」


下に向かってふーっと息を吐いた桜城さんが顔を上げた瞬間、私の胸はトクンと音を立てた。

さっきまでの優しい笑顔ではなく、少し困っているような頑張ってる作り笑顔がこれから聞かされる話を象徴してるみたいで。

緊張して見える桜城さんに引き摺られて、まだ戻っていなかった速い鼓動がまた走り出す。


「さっきさ、俺の顔の話したじゃん?」

「はい」


さすがにもう茶化す気にはならない。

ただ桜城さんの言葉だけを受け止める。


「まあ、コレのおかげでソコソコモテてきたわけなんだけど」

「・・・はい」


他の人が言ったら絶対ヒく台詞が、桜城さんの表情もあって自慢話には聞こえない。

それどころか。


「寄ってくる女の子は、殆どが顔に釣られてやってくるわけ」


自嘲した桜城さんに、彼の過去が垣間見えてちょっと苦しくなった。


「仕事でちょーっと厳しくすると、すーぐ『思ったのと違う』って言われてさ」


勝手な想像で作り上げた俺と比べられても困るっつの。

推測は外れていなかったようで、だからこっちに来てからずっと、すっごくモテるくせに彼女を作らなかったんだと納得がいった。




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