第20話 初耳
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「最初さ、ちょっと不安だったんだよね」
桜城さんが前を向いたまま話し出す。
私はそれを黙って聞いていた。
「薫がこっちの業務に配属になったのって、最悪のタイミングだったじゃん?
まともな引継ぎ出来ないだろうなって、出来ても3ヶ月くらい掛かるんじゃね?って思ってた。
実際本社対応になってた事もたくさんあったし。
でもバカな上はなんでか楽観視してるし。
その間に新人が辞めたらどうすんだよって、思ってた。
でもあの頃って俺も人事権なんて持ってなかったからさ。すっげイライラしてたんだよね」
それは7年も前の話。
直談判する前の事だろう。
だけど。
「・・・私の事、知ってたんですか?」
本社での新人研修の時は、桜城さんに会った事なんて無かった。
私はグループリーダーでも無かったし、目に留まるような新人でもなかったと思うのに。
「うん。だってホントはウチに欲しいなって思ってたし(笑)」
「え・・・?」
それは、初耳・・・です。
「つーか俺のアシスタントに欲しかったんだよねー。
4ヶ国語を操る新人が入ったって噂聞いた時から。
だから会えるの楽しみにしてたのに、例のいきなりフランスに渡った馬鹿の所為で俺の方は会議とか出張だとかが重なって、薫の業務研修の期間殆どデスクにいれなかったったんだよな」
ああ、そういえば私が支社配属前、迷惑先輩の穴は本社の桜城さん担当だった。
なるほど。だからか。
「そうしてるうちに狙ってた新人は支社に配属になったって言うし、探り入れたら支社の奴に仕込んだはずの仕事も時間が無いとかいうふざけた理由でまともに引継ぎしてないとか言われるし。
ホント・・・薫が直談判してくれて良かったよ(笑)」
ニヤッとした顔は、当時の私の無茶を笑ってるんだろうか。
「だって・・・」
あの頃、本当にもどかしかった。
担当とか言われながら何にも知らない自分にイライラしてた。
「俺さ、薫の直談判の話聞いて、すっげ嬉しかったんだよね。
急いで仕事振り分けて指導に向かった時の俺のワクワク加減たるや!
もう教えられるだけ教えてやろうと思って!」
「・・・で、あのスパルタ・・・」
「そう(笑)
もうさあ、どんだけ厳しくしても悔しそうな顔で必死についてくんのが可愛くて」
「!」
・・・いきなりそういう事をぶっこんではやめて欲しい。
ドSな発言なのに、顔が緩んでしまうのを隠せないから。
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2023年の更新は本話で最後になります。
ご覧頂きありがとうございました。
年明けは3日から再開したいと思います。
皆さまよいお年をお迎えください♡
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