第19話 優しい鬼
・
「ミルクティーは今度用意しとく」
そう言って渡された湯気の立つカップをお礼を言いながらそっと受け取り
心の中では「今度」なんてあるの?なんて考えていた。
桜城さんはそんな私の隣に躊躇無く座る。
私はほんの少しだけ触れた肘にドキドキしているというのに。
けれど
「ごめんな。ウチ基本インスタントしかねんだわ。
しかも家であんま飲まないから実は賞味期限ギリギリ(笑)」
桜城さんが話し始めて気付いた。
ハハッと笑う声はいつもと同じなのに、話す時は基本会う視線が全然合わない事に。
実は緊張してるのかな、と思う。
・・・ちゃんとする、話。って・・・
「今度」を期待していい話、なのかな・・・
私からは切り出せなくて、まだ熱いコーヒーを少しだけ口にする。
慣れないそれは少し苦くて、甘い。
ふーっと息をかけて少し冷まして、もう一口。
隣では桜城さんも同じようにコーヒーを啜っていたけど、途中で「んー・・」と唸り
「出しといてなんだけど、やっぱ売ってるヤツの方が美味いな(笑)」
そう言ってまだ半分くらいコーヒーの残ったカップをローテーブルに置いた。
「薫も、無理して飲まなくていいよ」
そう言って苦笑し、そして、
「あ・・・」
飲んでる席と同じように、私の持つカップを取りそれもテーブルに置いてしまう。
手持ち無沙汰を解消するのに丁度良かったカップを取り上げられて、空いてしまった手は、きゅっと膝の上で結ぶしかない。
「緊張してる?」
訊かれて、小さく頷く。
すると、隣に座った桜城さんが「俺も」と言いながら背凭れにぐっと背中を預けてソファに沈んだ。
「桜城さんも・・・?」
「 仕事中はぴったりくっついても全然なのにな(笑)」
まぁあ?仕事中なんて。
「桜城さん、私の事ザツに扱い過ぎですよね」
優しい時は優しいけど、仕事中は鬼だ。
別に手加減して欲しいとも思わないけど、たまに「鬼!」って呼びたくなるくらい鬼だ。
「だって、薫仕事出来んだもん。
指導係としてはさー、どこまで成長してるのか見たいじゃん(笑)」
「何年前の話してるんですか。もう小娘じゃないんですけどー」
そう、一生懸命仕事をしてきたらいつの間にかアラサー。
恋だって後回しにして、必死になって追いかけて来た。
・・・この人を。
・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます