第17話 手を繋いだまま



それから寮まで、まあ2分くらいの短い時間だけれど憧れの人と手を繋ぎながら、何故か他部署の部長の自慢話を本人じゃない人から聞くというよく分からない時間を過ごした。

エレベーターに乗り、各々住処の階のボタンを押す。

なんとなくタイミングを逸して手はずっと繋いだまま。


「・・・久しぶりの飲み会、楽しかったですね」


桜城さんの大野部長自慢が終わると、前の話題が話題だっただけにその後に困った。

結局当たり障りのない飲み会の話を振る。

私の事は置いといて、桜城さんは楽しそうだった。

沢山食べてもいたし、グラスを空けるペースもいつもより少し早かった気がする。

当たり障りなく、いい話題かなとおもっていたのに。


「薫はそうでもなかっただろ。時々、溜め息ついてたし」

「・・・気付いてたんですか」

「そりゃ、ね。見てたし」

「だって・・・」


言いかけた時、ポン、とエレベーターが3階に止まる。


「・・・着いちゃいましたね」

「だな」


桜城さんの手を握っていた指を、ゆっくりと開く。


そのまま手を抜こうと・・・したら。

桜城さんの手が私の手をぎゅっと握った。


「・・・桜城さん」


そういう事されると、今までずっと押さえ込んでいた気持ちが溢れてきちゃいそうで、困る。

多分社内の女子の誰より側にいるのに、それ以上を求めて。

欲張りになりそうで。


「放して下さ・・」


言い切る前に開いていた扉が閉まり、箱はまた上へと動いていく。


「ちょっとだけ、話させて?」


桜城さんの親指が私の手の甲を撫でて、またきゅっと握られる。


「・・・ちゃんと、さ」


見つめられて、「・・・はい」と頷く。

こういう時の予感を信じてもいいのだろうか。

仕事一筋でやってき過ぎて、どういう態度を取ったら良いのか分からない。




再び開いた扉を、手を引かれてくぐる。

桜城さんはエレベーターを降りてすぐの部屋の前で止まり、「ああくそっ」と呟きながら私の手を離しカバンのポケットから鍵を取り出しだ。


「ちょっと散らかってるけど、入って」


私の家と同じドアが開き、エスコートされるようにそっと背中を押され促される。

1歩入った瞬間、いつも桜城さんから微かに香る匂いがした。




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