第15話 酔っ払い
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初めての部長の手の温かさにドキドキしっぱなしの私の顔は、その繋いだ手よりもきっと熱い。
ゆっくり歩きながら、部長・・じゃない、桜城さんはご機嫌に鼻歌なんかを歌ってる。
低くて甘い声に聞き惚れていると、不意に桜城さんの電話が鳴った。
「ちょっとごめん」
私の手を離さないまま、やり難そうに胸ポケットを漁る仕草にキュンとする。
だって絶対手を離したほうが取りやすいのに。
電話の画面を見た桜城さんは一瞬だけ少し首を傾げ何かを考えていたみたいだけど
それでも4コール目には電話に出た。
「大野さん、どうしました?」
勝手に聞いちゃいけないとは思いつつ、聞こえた名前にビクッとする。
思わず力の入った手に桜城さんが「ん?」と私を見るのに、慌てて首を振ったけれどそれでもじっと私を見てるから、へにゃっと下手くそな愛想笑いをするとぷっと吹き出され、それを相手に咎められたのか電話の向こうに謝っていた。
大野さん、って。
大野部長の事・・・?
いっつも険しい顔で話してる、あの。
でも今電話をしてる桜城さんは楽しそうに笑ってて、会社で大野部長と並んでる時とは全然雰囲気が違う。
別の大野さんなのかな。
さすがに相手の声までは聞こえないから、話の内容までは良く分からないけど、でも、ホントに楽しそうに話してる。
「え、うん。そう、あたりー(笑)」
「目ぇ良いな(笑) 羨ましいでしょ(笑)」
桜城さんがこの先にある寮を見上げて笑ってる。
・・・相手は本物の大野部長なの?本当に?
でも桜城さんの話から察するに、大野部長が私達を見つけたとか、そんな話?
ここから見えるのはマンションの側面だから、大野部長の部屋も角部屋って事なのね。なんて関係ない事を考えてしまうくらいには驚いている。
「つーか電気消してるでしょ。見えねえし(笑)」
「え?月?風流な男だな(笑)」
ふっは!って笑うのはツボに入ってる時の笑い方。
時間も深いのに結構な大声で笑ってるから、道に響いてちょっと焦る。
いつもはこういう事に気が回る人だから、こう見えて結構酔っ払ってるんだなって、今更思った。
握られた手をグイッと引っ張り、シーッと口元に指を立てると桜城さんは「あ!」と焦った顔をして、ごめんと顔の前に手を立てる。
「ちょっと、あとで電話するから一旦切るよ? え? あ、そう。
じゃあ、おやすみー」
通話を切った桜城さんが「ごめん」ともう一度私に謝る。
「思ったより酔っ払ってますよね?」
「あーうん。かも(笑) オマケにこんな事してテンション上がっちゃってるし」
そう言いながら繋いだ手をぶんと振り上げ、ハハッと笑った。
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