第11話 二人で歩く帰り道



大通りを曲がり、少し街灯の少なくなった道を二人でゆっくり歩く。

私はわざと部長の半歩後ろを歩き、その顔をちらちら見ながら。

片手で数えるほどしか無かったけど、一緒に歩く時の部長は必ず車道側を歩き、私の歩くスピードにあわせて歩いてくれる。

普段の厳しさとのギャップに、殊更そんな優しさが沁みて


はあ・・・。


幸せ逃げる、と言われたって無意識に出る溜め息は仕方ない。


「疲れたか?」


優しい声に顔を上げれば、声と同じ穏やかな顔で部長が私を見てる。


「うーん・・・そうなんですかね・・・?」


部長が優しくする女の子が私だけだったらいいのにって考えてた。

なんて事は言えないからそんな適当な答えを返すと


「残業続きだったからなー。

ゴールデンウィークはゆっくり休めよ?」


ってまた・・・。

私じゃなくてもきっと掛けられる言葉は嬉しいのと切ないのと半分半分。

でも、そういえばGW・・・忙しすぎて全然予定立ててなかった。

明日からの9連休、どうしよう・・・。


「部長は、どうするんですか? GW・・・」

「俺? んー・・・とりあえず一旦東京帰ってー・・・。後は天気が良かったら東北に桜でも見に行くかな」

「桜!?」


この4月も終わりの時期に? と言われた事にビックリする。

毎年ニュースで桜情報が出回るのはせいぜい25日頃までだったと思うけど・・・?


「あれ、知らない? 秋田角館とか青森弘前とか。桜の名所だろ。

さすがに染井吉野は厳しいけど、枝垂れ桜とか遅咲きのが身頃なんだよ」

「へえ・・」


お花見なんて、社の他部署と合同のには一応参加するけど、そういう時は周りに気を遣ってばかりで、ゆっくり花を愛でるなんて全然出来ない。

桜は本当は凄く好きな花なのだけど。


「いいなあ・・・」


思わずポロッと本音が出てしまう。

すると。


「・・・一緒に行く?」


カツン、と立ち止まった部長がそう言って私を見つめた。

微かな笑みを浮かべたまま。


「・・・・え?」


突然の事に戸惑ってしまう。

部長と、・・・桜?

行きたいけど・・・でも・・・いいのかな・・・?

嬉しいのに、色んな事が頭を巡って、直ぐに返事が出来ないでいると、ふ、と部長がくしゃっと笑う。


「なんてな(笑)」

「ぶちょ・・・?」


直後、カツンと踏み出した部長の1歩が大きくて、顔が見えなくなったことに不安になった。



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