第10話 スパルタ教育係



それが、27歳にして係長だった桜城さんだ。

突然現れた王子系イケメンに、社内は「あれ誰?」とちょっとした騒ぎになっていたらしいけど、あの頃の私はそんな事を気にしてる余裕は無くて。

綺麗な顔だな、なんて思ったのは自己紹介された最初の1分。

後はもう、人生でこんなに厳しい先生には会った事が無いって程のスパルタ教育が待っていた。





「じゃあ始めるぞ。

語学のテストも兼ねてるから、今日明日、俺との会話は基本北京語な。

あと、昼は勿論一緒。食いながら理解したか確認するから。

ここまでで何か言いたい事はある?」

「・・ありません」

「OK」


そして始まった教育では、支社・業者毎の担当者とその人毎の電話の対応の仕方、納期順守率からみた発注依頼の出し方、持ち在庫予想に前倒し可能予想数の出し方、調達課へ渡す発注数の予想の立て方・・・その他諸々。

最初の3日間、私の担当の電話は桜城さんが全て出てくれて、私はそれを聞きながら、自分との違いをメモしていく。

4日目からは3日間で憶えた内容を元に少しずつ仕事をして、計算や対応の間違いは散々叱られながら修正し、それでも今までよりずっと効率的に仕事が出来ている事に

目の前の人がどれだけ凄いのかと実感した。

会話が中国語から少しは自信のある英語に変わると、少しは楽に桜城さんと向き合えるようになった。

相変わらず厳しいは厳しいけれど。

ちなみに、社内で外国語で会話をする私達を周囲は奇異の目で見ていたらしい。

後で聞けば業務課でもそれは同じで、最初に仕事を教えてくれてた先輩は心底アメリカ担当でよかったと思ったと言っていた。

でも、桜城さんは怖いばかりじゃない。

昼休み、全然食べた気のしない食事から戻って午前中の指導内容をPCに入力していたら、私のPCを覗き込んだ桜城さんが「ついでに」とデータ整理の仕方までアドバイスをくれた。

「新人にしては綺麗にまとめてるけどね」と褒められた時の嬉しさは今でも憶えてる。

あんなに厳しかったのに、最終的に桜城さんの印象が『優しい人』になったのは

ほんのたまーに見せる微笑と優しい言葉のせいだろう。

今なら、自分の魅力の使い方を熟知してるな、に変わっているだろうから、昔の私は素直だったなあと思わざるを得ない。

そりゃね、長年言う事聞かないオヤジ共を相手にしてたら可愛気も無くなるよ。


・・・これだから、相手にしてもらえないんだろうなあ。

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