第9話 新人時代
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なんとなく気まずいまま、並んで歩く。
私と桜城さんが住むのは、この先にある社員寮だ。
会社から徒歩10分の距離にある、それほど大きくはないワンルームマンションの
1階から5階までを、会社が社員寮として借り上げていて、転勤や出向で出向いている社員の住居として格安の家賃で提供している。
私が住むのは3階の角部屋。
桜城部長と大野部長は5階に住んでいる。
私は元々桜城・大野両部長と同じ東京出身で、希望は実家から通える本社勤務だったのだけれど、語学がある程度使えるのを買われ今の支社に配属になると同時にこの社員寮に入った。
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私が配属になった頃の支社には、今やアジア圏で取引をするのに必須な中国語をまともに喋れる人がいなくて、私はやっと研修が終わったばかりの、右も左も分からないド新人だというのに担当を任された。
つい1ヶ月前までいた中華圏担当は、何故か突然フレンチのシェフになる!といって会社をやめフランスに旅立ったらしい。
私が来るまでどうしてたのかを聞くと、本社でやり取りをした後こっちにメール送ってもらっていたと。
だから配属された時あんなに大歓迎されたのかと納得がいった。
でも、担当と言ってもそこは何も知らないド新人。
さすがに上司や先輩がついてくれたけど、でも先輩は元々アメリカ担当で中国語はさっぱりだし、とりあえずついた上司に至っては英語すら危うい。
それに先輩や上司も自分の仕事をしながらだったからロクな引き継ぎも出来ず、海外から電話やスカイプを繋ぐ度に呼び出されて通訳代わりをし、でも通常の新人の仕事も勿論あって、当然定時で終わらないから毎日残業。
そんなのを1ヶ月続けて・・・。
私は、ド新人のくせに上司にキレた。
『お願いですから、ちゃんと分かる方から引継ぎをさせて下さい。
担当だというからにはちゃんと仕事を覚えて対応出来るようになりたいんです』
そう訴えて。
当時の上司は私の勢いに気圧されたのか『分かったから。出来るだけ早くにするから』と一応頷いた。
でも支社には中国語が堪能な人はいないし、中華圏担当は今やおフランスの空の下。
それはもう重々分かり切っていたから早々には無理だろうと諦めてもう暫く残業三昧の日々を送って。
そして、上司にお願いをしてから2週間後。
本社から来た一人の男性が私の目の前に立って微笑み
「君の指導係です。
3週間しかいないから、俺の言う事一語一句聞き逃さない覚悟でやってね」
と、笑顔に似合わない怖い台詞を口にした。
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