第8話 名前
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「薫♪」
「晃さん♪」
なんて呼び合った彼氏彼女ごっこは結局解散になるまで続いて、いい具合に酔っ払った同僚達は
「部長、ごちそう様でしたー。お幸せにー」とかなんとか言いながら駅に向かって歩いていった。
残されたのは私と、部長・・・。
途中から焼酎に変えた部長は結構な量を飲んでたと思うのにまるで普通。
あのうっすーーーいサワーを2杯しか飲んでない(3杯目からウーロン茶にされた)私の方がきっと酔ってる。
だってまだ少し頭がふわふわしてる。
「さんざんヒトで遊んでくれやがったな、あいつら(笑)」
そんな事を言いながら苦笑し見送る部長は機嫌が良さそう。
「契約更新が無事に終わってハッチャケちゃったんじゃないですか?」
「まあ、残業三昧だったし。息抜きになったんならちょっとくらい遊ばれてやってもいいかなとは思ったけど。
薫は完全に巻き込まれ事故だよな(笑)」
・・・さっきの、お遊びの影響なんだろうな、って思うけど。
「・・・」
部長を見上げると、ん?と私を見返した。
「どした?」
「名前・・・薫って呼んでます(笑)
残っちゃってますよ。ぶ・ちょ・う?」
嬉しいけど、そういう意味じゃない名前呼びは私を切なくさせるばかりで
私は早々に呼び方をいつもと同じに戻した。
すると部長は
「あー・・・・・」
と一瞬だけバツの悪そうな顔をし、でも直後にはニヤッと笑って私を見る。
「彼氏に怒られちゃうか、薫は」
「こんなの知れたら、私、GW明けに女子トイレに呼び出しくらっちゃうかもですよ!」
「彼氏より社内の女子の方が怖いって?(笑)」
「そうですよ!」
毎日のように睨まれてるんですよ!?
そう返したら、部長は「・・・そっかあ。悪いことしたな」って苦笑して、私の頭にぽんぽんっと手をのせて「ごめんな」と謝ってきた。
「別に、怒ってるわけじなくて・・・」
言いかけて。
でも。
遊びじゃなくて、ひとりの女の子として呼ばれたいだけなんて事は言えなくて。
「帰るか。・・・小枝」
部長が呼び方を元に戻して言うのに、だた「はい・・」としか言えなかった。
下戸にはあのうっすーーいお酒が思ったより効いてたみたいで。
私は、とてもとても大事な事を部長に言ってなかった事に気付けないでいた。
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