第7話 カレカノごっこ



はあ・・・。

コクリと、少しだけサワーを飲んで息を吐く。

なんでサワーって最後の方になるとお酒の味になるんだろう。

半分まではすごく美味しいのに。

そんな事を思いながら苦い液体の入ったグラスを見つめていると、それに気付いた桜城部長が



「小枝、それ俺によこせ」



そう言って私の持っていたグラスを取り上げ、3分の1ほど残っていたそれを

ゴクゴクと一気に飲み干した。



「無理すんなっていつも言ってるだろ。不味いもん無理やり飲んでも楽しくないだろが」

「だって」

「だってじゃないー。お前はこっち食ってろ。新しいの頼むから」

「・・・いいんですか?」



目の前に出されたのは、さっき部長が取り分けてた唐揚げ。



「いんだよ。皿空けるつもりで取っただけだから。あ、俺も食うから1個は残して」



そんなやり取りをしていると、私の斜向かいに座った今年3年目の菊池くんが冷やかしてくる。



「いっつも思ってましたけど、部長と主任の会話って彼氏と彼女みたいっすよね(笑)

実は付き合ってるとかー?」



すると周りの人たちもそれに乗っかって「俺も思ってたー」とかやいのやいの言ってきて。

酔っ払いのたわ言と流せばいいのに、真に受けたりして。

それが事実じゃない事に小さく傷つく。

でも場の雰囲気を壊すのは嫌だから。



「みんなの憧れ桜城部長は私なんかに落ちないでしょー!?

何言ってるのもー(笑) ねえ部長?」



なんて部長の顔を覗き込んでみたりして。

そしたら。



「小枝、俺がモーション掛けても全然脈なしなんだもん。

マドンナ手強いわー(笑)」



部長からは思っても見なかった返しがきて。

嘘でしょ。ノリに合わせただけでしょ。

部長の言葉に周りはわあっと盛り上がって、「主任!部長はこう仰ってますが!」なんて手をマイクにして詰め寄って来る。

これ、やっぱりノリで返さなきゃダメだよね。

酔っ払いの悪ふざけなんだから。



「そんなぁ!桜城部長なら大歓迎なんですけどぉ」



かわいこぶりっこで大袈裟にクネクネしながら言うと今度は「主任はこう言ってますがどうなんですか」と部長にマイクが行く。いや、キミたち楽しそうだね!



「マジか。じゃあ今夜から付き合うか!」

「女子が怖いんで会社に内緒にしてくださいね?」

「何言ってんだよ。薫が俺のもんだって自慢してやるわ(笑)」



もう半ば自棄になって二人で突き進むと、周りからはヒュー♪と古い煽りが降ってくる。


これが本当になったらいいのに。

なんて、心の中で溜め息をついた。

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