第5話 うっすーーーいお酒



そして、ただ今18時半。


部長が上げた士気の影響が多大にあり、契約更新月のしかも最終週だというのに本当に定時で退勤出来てしまった私達は、駅前の海鮮が美味しい居酒屋のテーブルに着いていた。



「タクシー代までは出さねえけど、飲み放題だから自分で責任持てるくらいでどんどん飲めよー!」



私以外全員男性な事もあり、金曜日の仕事終わりだというのに部署内全員が揃った飲みの席。

店に着いてみれば部長の名前で予約がされていて、この飲み会が思い付きではない事を知った。

業務課が1年で一番忙しいこの時期、ひと段落ついたところで慰労会をと考えてくれたのだろう。

でもそんな実は部下思いだなんて事をおくびにも出さず、ただ楽しく飲もうと言ってくれる部長。


新卒で入社して、半年間は研修として本社の中のいろいろな部を回り、それを終えてすぐこの支社の業務課に配属され6年半。

私だって皆が仕事がしやすいようにと考え行動して、仕事をしてきたつもりなのに。

さっきみたいな士気の上げ方とか、この一見突発的なのにちゃっかり良い居酒屋での慰労会とか・・・やっぱりかなわないなあと思う。

そんな部長は最上座に居るくせに幹事宜しく



「とりあえず注文取るぞー?、生中の人ー」



そう自ら注文を取っていて。

私はといえば「お前はココ!」と指定され、部長の隣に座っている。

普通、こういう個室タイプの部屋なら女子が出入口側に座って注文を取ってとかやるものだと思うのに、桜城部長が業務課にきてからというもの、私は歓迎会以降の飲み会ではその席に座った事が無かった。

私以外の全員がビールに手を挙げたところで、部長は変な顔で笑うのを我慢しながら



「小枝はいつもの?

うっすーーーい、酒の味なんかしないようなグレープフルーツサワー(笑)」



とか訊いてくる。



「そんな顔して笑うの我慢するくらいなら、いっそ笑ってくれた方がいいです」



弱いんだからしょうかないじゃないですか!



「殆ど下戸なんだからいっそジュースでいいじゃん。

っていっつも思ってんだけどね(笑)」



それは私もたまに思うけど。でも。



「皆飲んでるのにひとりだけ素面ってヤじゃないですか」



周りのテンションが上がる中、私だけって、ねえ?

そんな私を見て桜城部長はフフンと笑う。



「淋しがり屋め(笑)」

「放っといて下さいよ!」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る