第2話 見た目も麗し
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次々に同僚が席を立つ中、私も部長の流暢な英語を聞きながらトントンとデスクの書類を整え、食堂へ行く為に財布を出す。
席を立とうとした所で部長の電話が終わり、ふう、という溜め息が聞こえてきた。
普段あんまり見ない、目を閉じ額に手を当てながら考える姿につい声を掛けてしまう。
「何か、悪い事ですか?」
マレーシアの支社には確か前倒し納入を依頼してた筈。
待っていたのはその返答だろう。
無理だったのだろうか。
「ああ、モノは来るよ。ただ後発注の3千、急がせたから15%割高になる」
「そうですかぁ」
「あー・・・ちっくしょ、あ、ごめん」
「ふふ(笑) いいえ」
この人のこんな汚い言葉を聞けるのは、多分この支社にいる女子の中では私だけだろう。
ちょっとバツが悪そうな顔も。
「もう終わりですか?」
「とりあえずね。後は腹ごしらえしてからにする。行くぞ」
「・・・」
社内用の携帯を胸ポケットに入れる、他の人なら何でもない仕草さえ目を引くってどうなの。
「どした?」
「いいえ?今日も大変麗しいなと思いまして」
「そりゃどうも(笑) ある種の武器だからね(笑)」
「そんな事堂々と言えるなんてうらやましい」
もう誰も歩いてない廊下を二人並んで歩く。
「っは!冗談だわ(笑)」
「そのお顔でその冗談は冗談になりませんよ」
そう、この上司は仕事が出来るだけではなく、見目が大変麗しいのだ。
管理部長の大野さんと共に着任の挨拶をした日の朝礼、社内の女子がざわついたのを思い出す。
それまでの上司がイケてなかっただけに当初は双璧と噂され、仕事で桜城部長に付く事の多い私は散々睨まれたものだ。
いや違うな。睨まれている。うん、現在進行形だ。
「顔で仕事するわけじゃねえし、どうでもいい(笑)」
部長本人は本当にそう思ってるみたいで、この2年の間に若干太ったり痩せたりを繰り返している。
でも多少体型が変わろうが人気は衰えない。
何故なら、部長は基本優しいから。
「遅くなっちゃったし、今日は奢っちゃるわ」
そう、こういうとことか。
でも私はいつも謹んで辞退を申し入れる。
「え、いいですよ。自分で買います」
ただでさえ睨まれてるのに、社食でそんなことされた日には女子の視線が。
ああ、想像しただけで恐ろしい。
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