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月湖

第1話 デキる上司



この春でOL生活7年目の私、小枝薫こえだかおるのウィークデイは地獄のように忙しい。

ああ、一応断っておきますが、これは決して苦情ではありません。

第一志望に就職できただけでありがたいのだから、ちょっと残業が多いとか取引先のオヤジが面倒くさいとか、そんな事は口には出しませんよ。

勤めている会社は1部上場のそこそこ大きい企業だし、お給料だってそれなりに頂いている。

毎日元気に楽しくお仕事しています。はい。



「小枝主任、確認お願いします」



そう、一応とはいえ20代で主任の肩書きも貰って、やりがいがあるったら。

今日も今日とて何十枚という書類を捌いてはデータをPCに入力し出力し、上司の承認印を貰う為隣の机の角に置いてある書類ケースへ。

バサリという擬音が合う24ページで一纏めの品質保証契約書類が18社分。

午前の目標にしていた分を終わらせることが出来て少しだけ心に余裕が出来た。

4月は契約の更新が集中していて、猫の手も借りたい程に忙しい。

月末の今週は月曜からずっと残業続き。

でもいい。家に帰って誰かが待ってるわけでもないし。仕事も好きだし。

それに仕事中はいつも隣にこの人がいるから。



「部長、承認印お願いします」

「了解。確認しておくから昼行っていいよ。時間過ぎてるから少し長めに行っといで?」



私の所属する業務部の部長、桜城晃さくらぎあきらさん。



「部長はどうするんですか?」

「腹は減ってるけど、まだ行けないんだわ」



若干35歳で業務部長の肩書きを持つ桜城さんは、工場を併せ持つこの支社の作業効率化と経費削減を徹底しつつ品質向上もさせ、それによって営業利益を増加させるという壮大な目標を実現させるべく、2年前に生産管理部長の大野さんと共に本社から出向してきた。

噂だけが先行していた2年前、40代50代中心の課長や部長代理の中で30代で部長としてやってくる二人に不信感を抱く人は少なくはなかった。

どうせ社長に媚び諂ってその地位を手に入れたんだろうと、部長の仕事なんてまともに出来るわけなんて無いと、多くのデスク組が思っていたと思う。


それが蓋を開けてみれば。



「マレーシアの返答待ち・・・っと、hello?」



二人が複数の語学を操り海外業者と対等に渡り合う姿を見せると、揃いも揃って私に国際電話を回していたジジイ共はそれだけで彼らを見直し、ここ5年の業績データを見ながら彼らが打ち出した方針に否を言う者はいなくなった。

ジジイ、チョロすぎるだろう。いいのかそれで。




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