第9話 似ている2人
魔王は、隊長と先生から呼び出された。
「なんだ、わざわざ。何かあったのか?」
魔王はそわそわして言った。
「ラパスのことですが、友人とも彼女とも、我々先生ともうまく行っています。ですが…。」
今度は隊長が口を開いた。
「ハッキリわからないのですが、何かちょっと違う気がするのです。」
「違うとは?」
「私と隊長には子どもがいます。出来の悪い子ばかりですが、自分の子ですから、やはり愛しています。彼らもまた私たちを愛してくれています。だからこそ、戦争もがんばれました。子どもたちに、明るい未来を残すためです。」
先生は続けた。
「それに比べると…ラパスの雰囲気はどこかよそよそしいのです。良い子すぎるというか、弱みをみせられない、甘えられていない感じがするのです。」
「うむ…。」
今まで厳しく育てすぎただろうか?
隊長が話し始めた。
「実は、魔王様と勇者は似ていると思うのです。」
「どういうことだ?」
「魔王様は我々のような平魔族とは違い、先祖代々の遺伝子と前世から情報を得て、ほぼ完全な状態でお生まれになります。魔王様のご両親は子育てをせず、各分野に才能ある他の魔族が魔王様の世話をします。そして成人し、王位を継ぐ時にはご両親の魂を取り込む儀式をし、魔王様は本当に完全な存在になられます。」
その通りだ。
全ての継承の最終で最新の存在が『魔王』なのだ。
「勇者は、6回の転生で、前世の記憶とスキルを引き継いでいます。さらに、人間側も勇者が転生することを前提に動きます。勇者も、魔王様と同じように生まれたときから完全な状態と環境なのです。母親に関しては、転生3回目からは、出産時に軍が待ち構えて、へその緒を切った瞬間に神殿に移動するそうです。そこからは前世からの続きで、勉強に訓練の毎日です。そして16歳で前世の記憶を取り戻し、完全になる…。まるで、魔王様の王位を引き継ぐ儀式のようではありませんか?」
「なるほど、まあ、勇者が人間でありながら、俺と同じ神に近い存在なのはわかったよ。だが、さっきの先生の話とどうつながるんだ?」
今度は先生が話し始めた。
「お二人とも、親の愛情を受けていないのです。」
親の愛…?
「親の愛が全てではありませんが、お二人は社会的な役割上、親から無条件の愛を受け、甘えたりぶつかったりする経験ができなかったのではないでしょうか。」
「確かに、俺は父のことも母のことも覚えてはいない。でも、だからといって、愛情を感じていないわけでは…。」
先生が言った。
「そこで魔族と人間の違いが出ると思うのです。魔族は遺伝子から先祖代々の愛を感じとることができます。ところが人間はそうではないらしいのです。」
先生は小説の山を見せてきた。
「人間が書いている小説、ドラマ、アニメを片っ端から見ましたが、人間は、愛を伝えたり受け取ったりすることが苦手で、愛を感じられずに、勝手に悲しくなったり、寂しくなったり、時にはキレたりするようなんです。」
「む、難しい話だな。」
隊長が口を開いた。
「今のラパスには、そういう愛が必要だと思うのですが、なんせもう半年を切りました。果たして、どうなるか…。」
「…そうだな…。やれることはやってみるが…。」
親の愛。
立場的に、やるのは俺だろう。
だが、俺に親の愛なんて伝えられるだろうか。
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