第5話 歴史の教科書
いよいよ、勇者は学校に入学する年齢になった。
名前が必要なので、平和を象徴する魔獣、ラパーチェからあやかって、『ラパス』と名付けられた。
「今日からお前はラパスだ。明日から魔族学校に行き、しっかり勉強するように。」
「はい、魔王様。」
ラパスはニコニコしながら学校で使う道具を眺めている。
(やっと…自分の時間ができる!学校ありがとう!)
魔王は涙をにじませた。
「長かったですね…お疲れ様でございます。ところで、歴史の教科書の内容をどうしましょう?」
「教科書?」
「聖戦の内容です。今までは、いかに人間が身勝手な生き物で、勇者は残虐な人間であるかを強調し、魔王軍や魔族が子どもたちの未来のために命懸けで戦ってきたかを書いていましたが、ラパスがこれを見たらちょっとまずいかと思い。」
人間側の書く歴史はこうだ。
魔王が世界征服を狙い、各地を侵略する。
そこに神の加護を受けた勇者が誕生する。
勇者は魔王に立ち向かい幾度も破れるが、その都度復活し、完全に悪を打ち破るまで闘う。
すでに人間側では、復活を繰り返す勇者は神扱いだ。
そして魔族側からみる事実はこうだ。
聖戦開始のきっかけは、人間側が行った鬼ヶ島制圧と魔女村焼き払いだ。
鬼ヶ島は当時、鬼人族が周辺地域を暴力で支配し始めていた。
その討伐に乗り出したのが桃太郎軍だった。
鬼人族があたかも悪玉のようだが、実際はその悪行に人間は一枚も二枚も噛んでいた。
人身売買なんかは人間側が一手に引き受けていたくらいだ。
鬼人族の要請を受けて魔王は援軍を出したが、桃太郎軍は思いの外強く、制圧された。
続けざまに、魔女村焼き払いが起こった。
流行り病が魔女の仕業だとされたのだ。
近隣の村人たちが魔女村に火を放った。
魔女村からの連絡を受けて護衛隊を出したが、そこで人間の貴族たちが動いた。
あたかも、魔王軍が侵略行為を始めたかのように騒ぎたてたのだ。
そこから聖戦が始まった。
まもなく勇者が生を受け、魔族対人間の構図が決まってしまったのである。
魔王はため息をついた。
事実は事実だが、もう100年前の話だ。
今や鬼ヶ島は世界有数の観光地で、鬼人族は原住民族として観光にくる人間にサービスしている。
魔女村もそうだ。
今は空前の魔法使い、魔法少女ブーム。
魔女スクールができ、本物の魔女が監修するフードやおまじないが人間の間で流行っている。
もう戦争の意味がない。
「そうだなぁ…きっかけについてはしっかり書いて、『戦争はそれから100年続いています』くらいにぼかそうか。」
「そうします。」
隊長が部屋を出ていくと、ラパスが本を持ってこちらに寄ってきた。
まだ字がちゃんと読めないので、読んでほしがってるのだ。
魔王とラパスはベッドに寝転がった。
本のタイトルは、『ともだち100人できるかな』だ。
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