幕間8 死? サラ? 夢?
「ユラ、前に出過ぎだ」
「でも、早く先に進まないと」
「サラなら大丈夫さ。英雄様達と一緒なんだから」
夫はそう言うがサラは1人で動くことが出来ない。サラには私がついていないと。
「ユラさん、下がってください。2班前に。3班は右の道を警戒してください」
英雄様達が分かれ道に印のメダルを落としてくれているので私達は迷わずに進めているのだが、遭遇する魔物が強く、思うように進めないでいる。本来なら400階層に辿り着いていないといけないのに、私達はまだ391階層までしか到達出来ていない。
私はどうしても気持ちが逸ってしまい、前に前に出てしまう。片腕しかなくレベル322の私では足手まといになってしまうのは分かっているのに。
「大丈夫、大丈夫さ」
夫は私に優しく何度も何度もそう言ってくれるのだが……私はサラを守り続けなくてはならないのだ。約束を守るために。
「走れ~。後ろからスケルトンの群れが迫ってるぞ」
後列の守りの予備に回されていた私達の後ろから後列の見回りに行っていたチムンが叫びながら戻って来た。
「スケルトンだと? バルド様はどうした?」
「横道から、いきなり魔鬼が現れたんだよ。後列と分断されてしまった。休憩中のマリク様と5班を後ろに回すように伝言に走ってくれ」
「ん? チムン、お前は?」
「俺は戻ってスケルトンの群れの足止めをする」
「なら、俺も行く。ユラ、代わりに伝言頼む」
「え? でも……」
「ユラ、急いで行くんだ。分断されたままだと後列が全滅するかも知れないんだぞ」
「ちっ。もう来やがった。ヤルタ、俺達で足止めするんだ」
スケルトンの群れ、その数12体。
夫のレベルはスケルトンと互角に戦える381なのだが、スケルトンは12体。
「行け~、ユラ」
夫達は剣を抜き、12体のスケルトンに向かっていく。この場所からマリク様のいる場所まで行くには全力で走っても5分以上かかるだろう。往復なら……。それまでに夫達は……。
「私も戦います」
夫を失ったら、生きている意味がない。
「ダメだ。ユラはサラを守ると約束したのだろう。サラの家族が救ってくれた俺達の命はサラのために使うと12年前のあの日に誓っただろうが」
「でも……」
サラの家族が私を、夫を、そして息子を救ってくれた。3年前の襲撃で息子を失ってしまったが、私達家族が受けた恩はまだ全然返しきれていない。……それは分かっているのだが、息子に続き、夫まで失ってしまったら……。私は剣を抜いて夫の元に走る。
「馬鹿が」
「ごめんなさい」
「ふっ。まあいいさ。チムン、俺達がここを押さえる。代わりに伝言頼むぞ」
「わ、分かったが……し、死ぬんじゃないぞ」
夫とスケルトンは互角。スケルトン1匹と互角なのだ。私はスケルトンの攻撃を受けきれずに剣を手放してしまう。左手のない私には盾がない。
「ユラ~~~」
夫は3体のスケルトンに襲いかかられ、動くことが出来ない。
私に迫るスケルトンの剣。
私のわがままで残ったのに何も出来なかった。
これで息子に会えるという思いと、サラを残していくという罪悪感が頭の中を駆け巡る。
「ごめんね、サラ」
私が生を諦めた時、聞き慣れた声が聞こえて来た。
「風の精霊様、私に力を貸して下さい。風魔法、鎌鼬~」
え? この声は?
私に攻撃しようとしていたスケルトンが。12体のスケルトンが一瞬で倒されてしまった。
「サラ? え? え?」
声が聞こえた後ろを振り向くと杖を構えたサラがいた? サラが……立っていた?
これは夢なのだろうか?
「サラはその人達の回復を。ユウは前進。ノルンは前進してから右の分かれ道を塞いでくれ」
「行くわよ、ノルンちゃん」
「突撃にゃ~」
私達の横を走り抜けていく3人の英雄様。そして私達の傷を回復してくれる……サラ。
「ユラおばさん、回復しますね」
回復?
私の傷は既に完治しているのだが、サラは私に微笑みながら言った?
「ふふふっ、行きますよ。回復魔法完全回復、神の奇跡」
サラがそう言うと私は神々しい光に包まれた。
え? え? どうして……左手が?
「サラ?」
「ふふふっ、ユラおばさん。今まで、ありがとうございます」
サラは笑顔でそう言うと私に抱きついてきた。
私は……戸惑いながら……両手でサラを抱きしめた。
私は夢を見ているのだろうか?
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