25話 回復! 痛い! 痛い!












「楽勝ね」


「さすがユウ」


「ふふふっ、苦労したけど、ノルンちゃんが教えてくれたからね」


「ノルンって天才だよな」


「ふふふっ。そうね。私達と違って厳しい世界で生まれたし、お姫様としての責任感もあるんだろうね」


「そうか……責任感か。僕にはないね」


「ふふふっ。私もね」


「ノルンは何も考えてなさそうに見えるんだけどな」


「ふふふっ。そう見せてるだけなのかもね。私達を不安にさせないためにね」


「そうかもね」


「あつし。私はノルンちゃんもサラちゃんも好きだよ」


「ん? もちろん僕もだけど?」


「出来ることなら……ノルンちゃんの世界を」


「無理だね。魔王なんて倒せないよ」


「あつし」


「ユウ。これだけは約束するよ。僕はユウを幸せにするよ。そしてノルンのことも。サラのこともね。もし、僕達の幸せの邪魔をするんだったら、相手が誰だろうと戦うよ」


「魔王でも?」


「それは厳しいね」


「私も協力するよ」


「あつし様。私も協力します。きっと、いや、絶対ノルン様も」


「はあ~。なら……僕だけ逃げ出す訳にはいかなくなるよね」


「ふふふっ。私はあつしと一緒なら幸せだよ」


「あつし様。私は幸せです。何もできないと、一生何も出来ないと思っていたのに。私は一生あつし様についていきますね」


「何だか責任重大だね」


「そりゃそうでしょ。3人も同時に手を出したんだからね」


え? ユウ?


サラを見るとクスクスと笑っているのだが……。


バレてたのか……。













僕達は25日間で501階層から600階層のボス部屋の前まで辿り着くことが出来た。


「どうする?」


「ノルンが倒すにゃ」


「私も頑張ります」


「ふふふっ。じゃあ、私は外から見てるね」


「ノルン、出し惜しみなしで行くよ」


「分かったにゃ」


「私も頑張ります」



僕達は扉を開けてボス部屋の中へ。


「「 限界突破(にゃ)~ 」」


「行きます」


「ふふふっ。いってらっしゃい」






僕とノルンは走った。ボスの姿を確認する前から。


キマイラ。


ライオンの頭と山羊の胴体、蛇の尻尾。


伝説の通りの姿。


「掩護します。火の精霊様、私に力を貸してください。火魔法、業火」


サラが魔法を放った。


僕は左から、ノルンが右からキマイラに接近。


キマイラはサラが放った炎に包まれている。


視界が塞がれている今がチャンス。


キマイラに接近した僕は走りながら剣を振る。


キマイラに接近したノルンは走りながら剣を振る。


よし。


僕の剣がキマイラの横腹を斬り裂く。


おっと。


口を開けた蛇が目の前に。僕は身体を傾け、回避。


キマイラは? ノルンに向かって火を吐いた。


「遅いにゃ~」


炎はノルンに当たらない。炎を吐き、動きの止まっているキマイラに追撃を。


僕は邪魔なキマイラの尻尾の付け根に攻撃を。斬り落とした蛇の姿をしたキマイラの尻尾が口を大きく開け、牙を見せたまま僕に向かって来たので、僕は尻尾を更に真っ二つに。


「水の精霊様、敵の動きを止めてください。水魔法、水牢」


サラの水魔法がキマイラの足に絡みつく。


キマイラ

HP 8322/20000

MP 9950/10000


キマイラのHPはかなり減っていた。


「ノルン、キマイラのHPは残り半分だ」


「一気に決めるにゃ~」


僕とノルンは左右から挟み込む形でキマイラに斬りつけていく。


ん? 光?


後少しで倒せそうだったのだが、キマイラが光に包まれたのだが?


「あつし様。あれは回復魔法です」


「え? 回復?」


キマイラ

HP 20000/20000

MP  7950/10000


え? え? 振り出しに戻ったのか? って尻尾が。傷も無くなってるし。


「にゃ? あつし、どうするにゃ?」


残された時間は……5分もない。僕達のMPが切れると……。


仕方ないか。これは男の僕の役目だよな。


「ノルンはキマイラの背後から攻撃してくれ」


僕は前に出た。キマイラの正面から剣を振る。キマイラは口を大きく開ける。僕は火を吐かれるのだと分かっていたのだが、その場に留まり、剣を振り上げた。キマイラの口から放たれた炎が僕に。僕は炎に包まれる。


熱いっ。熱いっ。が耐えられないダメージじゃない。


僕はキマイラに向かって剣を振り下ろす。


ぐっ。痛いっ。


僕の腕にキマイラの尻尾が噛み付いて来た。


痛いけど、痛いけど、やるしかない。


僕は剣を下段からキマイラに向かって振り上げる。


僕とキマイラは正面からの殴り合い。時間のない僕に防御や回避をしている暇はないのだ。


「あつし様。任せてください。癒やしの精霊よ、あつし様を癒やしてください。上級回復魔法、精霊の抱擁」


光に包まれた僕の身体から痛みが引いていくのが分かる。


僕は剣を振る。キマイラに回復魔法を使う暇を与えないためにも連続で。


キマイラが前脚を振り上げた。鋭い爪が迫って来たのだが、僕はキマイラに向かって剣を突き刺した。


ぐっ。痛すぎっ。


キマイラの攻撃をまともに食らってしまったのだが、今は泣いてる暇はない。僕は体重をかけ、キマイラに刺さった剣を深く食い込ませていく。


くっ。また尻尾かよ。


僕に噛み付いて来た蛇の姿をしたキマイラの尻尾。


我慢だ我慢。


「上級回復魔法、精霊の抱擁」


サラが掩護してくれているので、僕が死ぬことはない。死ぬほど痛いのだか。


僕はキマイラに深く突き刺した剣の柄に下向きに体重をかけ、傷口を広げる。


「グオォ~~~~」


キマイラは苦しそうに叫ぶ。僕を睨んでいるキマイラ。


再び口から火を吐くのが分かったのだが、僕は更に剣に体重をかけて、キマイラの傷口を広げる。


ん? 来ない?


炎に包まれるのを覚悟していたのだが……キマイラの目の輝きが消え、その場にひれ伏した。


勝ったのか。


キマイラのHPが0になったのを確認した僕は限界突破を解除し、その場に座り込んだ。


「勝利にゃ~」


ノルンが笑顔で僕に飛びついてきた。


僕はノルンをギュッと抱きしめる。


「あつし様。凄かったです」


「こらこら、そこ、いちゃつかない」


「サラ、回復ありがとう。助かったよ。ユウ、シンドイ。2度とこんな戦い方したくないから、レベル上げしないとね」


「あつしなら、またやれるわよ」


「ふふふっ、あつし様、ファイトです」

 

「レベル上げは面倒にゃ」


「はあ~。絶対に嫌だよ」














僕達は倒したキマイラと宝を回収し、ダンジョン400階層を目指している猫族達と合流するために、急いで階段を上っていく。








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