第8話 スロースターター! お得! お得!







「ムッ。あつし、見てよ。ここも冒険者優遇だよ」


「ここもか。どんどん増えてくね」


ダンジョンが出現してから5年。冒険者が優遇される場所がどんどん増えて来た。5年前までの日本は食料もエネルギーも海外に頼っていたのだが、ダンジョンで食料もエネルギーも手に入れることが出来るようになってからは、冒険者さえいれば国が成り立つと言われるようになり、どんどん冒険者の地位が高くなって来たのだ。


「ねえ、このままだと、いつかはお金の価値が無くなるんじゃない?」


「それはないと……思いたいけど……」


お金だけでは買えない物が増えて来たのは事実。だけど、お金は政府が発行しているのだから、価値が無くなることはない。……たぶん。22歳になった僕とユウ。お金はあるけど、レベルは1。もし、お金の価値が無くなれば……。


少し不安を感じたのたが、僕はないと判断し、今まで通り、遊んで暮らすことにした。






















更に3年が経ち、僕達が25歳になった時、ユウの母親が病気に。魔血栓病と言われるダンジョンが出現した後に見つかった病気で上級ポーションでしか治らないと言われているそうだ。


僕達はすぐに購入しようとしたのだが……購入出来るのはB級以上の冒険者のみと断られてしまった。ポーションのほとんどがダンジョンの宝箱から見つかるためにダンジョン出現から8年が経った今では空の宝箱ばかりで、中身の入っている宝箱を見つけるのは至難の業だと言われてるのだ。


僕は兄と親友のショウとお巡りさんにメッセージを送ったのだが、残念ながら手に入れることは出来ないと返信が。


売ってくれないというより、在庫自体がなく、入荷したとしても、強い冒険者の命を救うことが優先されるのだろう。手に入れるには……誰も到達してない階層まで進むか………!!


「ユウ。誰も入ってないダンジョンがあるよ」


「あっ。でも……魔物が強くなってるよね?」


「他のダンジョンを探すよりは見つかる可能性が高いと思うんだ。もちろん他のダンジョンでレベルを上げる必要があるけどね」


「いいの? あつしはダンジョンに入りたくないんでしょ?」


「大丈夫。スライムに負けたのは8年も前だからね。もう忘れたよ」


「あつしがいいなら……」













僕とユウは僕の祖父の裏山にあるダンジョンに向かった。








「あつし、久しぶりだな。話は母さんから聞いてるよ。好きな武具を持っていくといい。もちろん、ユウさんも好きな武具を持っていってくれ」


祖父の家の隣にある兄の店には沢山の武具が。


F級の剣    1万円

E級の剣   10万円

D級の剣   50万円

C級の剣  200万円

B級の剣 1000万円

A級の剣    1億円


「A級の武具でいいよね。剣と鎧と盾を2セットで12億だね」


「ん? 金ならいらないぞ」


「大丈夫。お金ならあるから。それより、他には何かいいアイテムはない?」


僕が兄に聞くと後ろから声が聞こえてくる。


「ありますよ」


声の方を振り向くとお巡りさんとお巡りさんの部下らしい2人の女性が立っていた。


「お巡りさん。来てくれたのですね」


「ユウさんのお母さんにも多大な協力をして頂きましたからね。ユウさん、お母さんのことなら、私に任せてください。上級ポーションを手に入れることは出来ませんが、病の進行を止める方法ならあります」


「お巡りさん」


ユウが笑顔に。


お巡りさんに方法を聞くと……ダンジョンに連れて行き、魔物に倒されるようにするのだと。は? こいつは何を言ってんだ? って思ったのだが、20階層までなら、魔物との戦闘で死ぬことはない。HPが0になっても気絶するだけ。その気絶の状態なら病が進行することがないのだと。


「あつしくん。まずはこの小玉を買ってください」


お巡りさんは風呂敷を広げると、その上に小さな玉を並べていった。


その小玉の1つを鑑定すると。


F級の力上昇の玉と表示された。


「これは?」


「基本ステータス値を上昇させる小玉です。F級なら1粒で5百万円でいいですよ」


「ステータス値上昇? 貴重なアイテムなんじゃ? あれ? 安いんじゃ?」


「ははは。現在ではあつしくんとユウさんくらいしか買ってくれる人がいないからですよ」


「僕達しか? どういう意味?」


「F級の小玉は15までしか上がらないのですよ。ダンジョンが出現して8年間でほとんどの人達がレベル上げに力を入れましたからね」


「あ~誰にも売れない売れ残りってことね」


ユウが呆れたように言う。


「ユウ。それでも貴重なアイテムだよ。僕達以外にもレベルを上げてない人はいるだろうからね」


「ははは。ユウさんの言う通りてすね。小玉を買えるくらいの人達はお金に物を言わせてレベル上げをしてますからね。どうしますか?」


「もちろん買います」


「では、あつしくんのステータスを鑑定してから、必要な数を確認しますね。エミさん、お願いします」


お巡りさんがそう言うとお巡りさんの部下らしい女性が僕の前に。そして、僕のステータス値を紙に書いて渡してくれた。


あつし

レベル1

HP30/30

MP20/20

力    6

耐久力  5

抵抗力  2

素早さ  4

知力   3

器用さ  2

運    6


僕も鑑定のスキルがあるのだが、HPとMPしか見ることが出来ない。きっとレベルの違いなのだろう。


「どうなんだろ?」


僕が紙を見ながら呟くとお巡りさんが言う。


「HPとMPの平均合計値は50です。それ以外の平均値は5ですよ」


「ならHPとMPは平均で……それ以外が合計平均よりも7も少ないのか。ユウは?」


「私はちょっと高いくらいかな」


「高くても低くても、小玉と中玉を使用するならかわりませんよ」


お巡りさんはそう言うと僕達の前に中玉を2粒と小玉を7粒置いた。


「え~っと……まさか、飲み込むってこと?」


薬の錠剤のように小さいので、飲み込むことは出来そうなのだが、得体の知れない物を口に入れるのは抵抗がある。もちろん、お巡りさんのことは信用しているのだが。


「飲み込めばいいのね。中玉はちょっときつそうね」


ユウはそう言うと躊躇することなく口の中に入れ、水で流し込んだ。


仕方ない。僕も。


僕は覚悟を決めて口の中に。そして水で流し込む。


うっ。なんだ、この感覚。熱いっ。


胸が熱く熱くなっていく。それだけではなく、目眩も。更に全身が熱を帯びたように熱く熱くなっている。


「まだまだ行けますよ。ユウさん、あつしくん頑張って下さい」


お巡りさんはそう言うと再び僕とユウの前に小玉と中玉を置いた。


う~、まだ終わらないのか。


ユウを見ると平気そうな表情で次々に飲み込んでいた。


はあ~。仕方ないか。安全にダンジョンを攻略するためだからな~。




















苦しい~。これでラストだよね。


僕は2つの中玉を水で流し込んだ。


「これでラストかな。頑張って下さい」


はあ~。上がりきらなかったのか。


僕は自分で自分を鑑定してみる。


あつし

レベル1

HP 30/100

MP 20/98

力    15

耐久力  15

抵抗力  15

素早さ  15

知力   15

器用さ  15

運    15


後、2か。


僕は中玉を流し込んだ。


すると最大魔力量が2上昇することが出来た。


「小玉と中玉を合わせて152個でしたので7億6千万円になります」


「う~。気分悪っ。お巡りさん、明日までに振り込みますね」


「いつでもいいですよ。それに明日はE級の小玉でステータスアップですからね」


「え? 明日も?」


「レベルを上げる前がお得なんですからね。終わらせないとダンジョンには入れませんよ」


「え~っと……E級で終わり?」


「いいえ。F級の小玉が15まで。E級の小玉が20まで、D級の小玉が25まで、C級の小玉が30まで、B級の小玉が35までA級の小玉が40までになります」


「は? そんなに飲むの?」


「飲まないと後で後悔しますよ。あつしくんとユウさんはお金があるんだから、40まで上げないと」


値段を聞くと思った程高くなかった。


F級 5百万

E級 2千万

D級 4千万

C級 6千万

B級 8千万

A級 1億


「警察官や自衛官は飲まないのですか?」


「見つかり出したのが最近なんですよ。まあ、今までも効果が分からずに飲んでしまった人は沢山いると思いますけどね」


「新人の警察官や自衛官は?」


「ダンジョンが出現して8年ですからね。新人でもレベル50はありますよ」


「そんなに?」


「ダンジョンの出現で価値観が変わりましたからね。レベル30以上になれば魔物と同じく、銃等が効かなくなります。強い兵器でもレベルが上がっている相手には無意味になります。レベル100を越えれば核でもダメージを与えられないとの噂があるくらいですからね」


「あ~、そんな噂がありましたね。……噂ですよね?」


「さあ、どうでしょうか。日本では試せませんが、海外では色々とね」


「……試した可能性があるってことですね」


「あつしくんは誰がダンジョンを作ったと思いますか?」


「え?」


「ダンジョンが出現したことで、魔核というクリーンエネルギーが手に入れるようになりました。食料問題も解決出来るように。一番大きな変化は今までの兵器が無意味になったこと。レベルを上げた者には魔鋼石か魔法石で作った武器か、魔法か、肉体での攻撃しか効きませんからね」


「食料問題もエネルギー問題も核の問題も解決した? そんなことが出来るのは神様ってことですか?」


「可能性の1つですがね」


「戦争も無くなる?」


「それは分かりません。各国はダンジョン攻略に力を入れてますからね」


「人口が多い国の方が有利ってこと?」


「さあ、どうでしょうかね。最強の戦士を作り上げれば、1人で無双出来る可能性もありますからね」


「無双ですか」


「その可能性があるのが、レベル1で、お金をたっぷり持っているあつしくんとユウさんなんですがね」


「え? 僕がスライムに負けた話は何度もしましたよね」


「覚えてますよ。スタートダッシュに成功してたんですよね」


「いや、失敗ですよ」


「ははは。あつしくんとユウさんほど稼いでる冒険者は一握りですよ。それもレベル1でとは凄すぎますよ」


「はぁ。まあ、稼ぐことは出来たかな」


「お巡りさん、今からE級の小玉も飲んでもいいの?」


僕とお巡りさんの会話が一段落した時、ユウがお巡りさんに話しかけた。


「構いませんが、体調は大丈夫ですか? あつしくんは気持ち悪そうにしてましたが」


「私は大丈夫だよ。あつしは?」


「う~ん。早く終わらせた方がいいかな」

















あつし

レベル1

HP400/400(+200)

MP400/400(+200)

力    40

耐久力  40

抵抗力  40

素早さ  40

知力   40

器用さ  40

運    40


A級の剣

A級の鎧

A級の盾

S級の罠無効の指輪(※レンタル)

S級の成長率上昇の指輪(※レンタル)

S級のHPの指輪(※レンタル)

S級のMPの指輪(※レンタル)

剣士の指輪





僕とユウはダンジョンの階段を降りていく。


後に英雄と呼ばれるあつしとユウの伝説はこの日から始まったと言われている。




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