第5話 安全! 高収入! 死亡?





「あつし! 久しぶりだな」


教室に入ると親友のショウが駆け寄って来てくれた。


「仕事が忙しかったからね。ショウも毎日ダンジョンに入ってるんだろ」


「まあね、稼げるからね。でも家は高校にはちゃんと行けってうるさいんだよ」


「ショウ達は10階層まで辿り着いたって言ってたけど、どれくらい稼げてるんだ?」


「あの時は4人で100万くらいいったかな。その後、学校サボったって、こっ酷く叱られちゃったけどな」


「100万? 普段は?」


「学校がある時は2人で1万円前後だけど、土日なら1日あたり5万は稼げてるかな。学校を辞めてダンジョンに20日入れば最低でも100万は稼げるんだけどな。あつしは?」


「今のレートだと1日100万だよ。明日から更に下がりそうだけどね」


「は? 100万? 採掘してるだけって言ってたよな? ユウさんと2人で100万も稼いでるのかよ」


「ん? 今は4人だよ。僕が100万で、ユウとユウの両親で100万だね」


「凄いな。魔鋼石の価値が暴落したというのに。1人で100万か~。そら、学校に来ないわな」




ショウと話してると教室の扉が開いた。


ん? お巡りさん?


教室に入って来たのは2人。先生と、毎日魔鋼石を買ってくれているお巡りさんだった。どうやら特別授業の講師はお巡りさんのようだね。





特別授業の内容は知ってることばかり。魔物にダメージを与えるためには魔鋼石か魔法石で生成した武器か魔法か肉体での攻撃のみだという既に何度も何度も聞いた話。そして魔物との戦闘では死なないという当たり前の話。ダメージを受けてもHPが減るだけで傷付くことはない。HPが0になれば気絶してしまうが死ぬことはないという既に知れ渡っている話。


お巡りさんは言う。


「なので、海外では子供の身体能力を向上させるために、赤ん坊を連れた親もダンジョンに入ったりしているらしい。力や体力だけじゃなく、知力や運等も向上するから、日本でも同じように子供を連れてダンジョンに入る親が増えるだろうな」


なるほど。勉強するにしてもスポーツをするにしてもレベルが高い方が有利になるからね。


「注意点が1つ。レベルが上がらない子もいる。おそらく、その子はスキルも魔法も覚えられないだろう」


この話は初耳だったので、周りのクラスメート達もお巡りさんに注目した。


「その子というのは、あの地震があった、あの光に包まれた瞬間までに母親の身体から出ていなかった子だ。まだ3ヶ月以下の子達なので、詳しい検証は出来てないがな」


ん? ってことは、これから生まれてくる子供達はレベルを上げれないということなのか。


「全員顔を上げろ。ここからが大事になってくる。来週から国が管理しているダンジョンを開放する予定になっている。レベルを上げるために、スキルを手に入れるために、魔法を手に入れるために、宝を手に入れるために、多くの人達がダンジョンに入るだろう。ダンジョンは安全なのだからな。そして、これからの時代は高収入を得るためにはダンジョン攻略が必須になっていくだろう」


誰もが理解し、お巡りさんの話を真剣に聞いている。


「来週のダンジョン開放と同時にダンジョンについての授業が全ての学校で始まる。座学と実技、もちろん実際にダンジョンに入ることになるだろう」


ダンジョン攻略か。まあ、僕には関係ないかな。


「ダンジョンに入る前に考えておかなければならないことが、1つある。それは、スキルや魔法の選択だ。レベル15以上にあれば2つ目を覚えることが出来るようになるが、14未満では1つだけ。攻撃系のスキルや魔法を覚えると戦闘が楽になるが、生産系ではお金を稼げても戦闘が厳しくなる。しかしダンジョンを攻略するには武具が重要だ。攻撃系のスキルや魔法がなくても、生産系のスキルや魔法で得たお金で武具を揃えれば、攻略が楽になるだろう。どちらがお得なのか俺には分からないし、まだまだ知られてないことばかりなので、有利不利の情報は毎日変わるかも知れない。そして未知の魔法やスキルはまだまだ沢山あるだろう」


未知か。ユウのアイテムボックスのように知られてないスキルや魔法が沢山あるんだろうな。


「たとえば、アイテムボックス」


え? 僕の心を読んだ?


ユウを見ると僕以上に驚いていた。そして目が合ったよ。苦笑いしているユウと。


「ちなみにアイテムボックスか、類似したスキルや魔法を覚えた者の中で、一番に政府に知らせてくれた者には賞金5億円が用意されている。もちろん鑑定させて貰うという条件でだがな」


また僕とユウは目が合った。ユウにはこのスキルを持っているのがバレるとトラブルに巻き込まれる可能性が高くなると話してたので、いますぐには名乗り出ないだろう。まあ、魔鋼石を売りに行ったついでに話して賞金を貰えば問題ないよね。


「まだ君達には関係ない話だと思うが、ダンジョンで安全なのは20階層までらしい。まだ情報が少ないので、はっきりと言えないのだが、21階層からは魔物との戦いで怪我をしたとの報告が上がっている。可能性は2つ。20階層までは何かに守られている可能性

。2つ目は魔物の攻撃力が一定値を超えると怪我を負う可能性。もし、この仮説が正しいとすれば20階層まででも怪我をするかも知れない。運が悪ければ死ぬだろうな。なので、はっきりするまでは余裕をみて15階層までしか下りない方がいいだろう」


死ぬ! 安全安心高収入って思っていたのに。まあ、僕にはスライムに殺されるって思ったトラウマがあるから、ダンジョンの入口までしか入らないんだけどね。







特別授業が終わるとユウがお巡りさんの元に駈け寄った。


言っちゃうのかと焦ったのだが。


「明日から2倍の量に増やしてもいいですか?」


「え? 2倍ですか? 魔鋼石1キロで千円しか払えませんよ?」


「はい。両親が2倍でも3倍でも10倍でも運べると張り切ってるので」


10倍って…お巡りさんも困惑してるよ。まあ、そう言った方がユウのアイテムボックスの便利さが理解出来るだろうけどね。














「魔鋼石2万キロで2千万円になりますがよろしいですか?」


って、本当に10倍になってしまったよ。ユウは楽そうだけど……僕はかなりきつくなってきたんだけど。


「はい。お願いします」


「ありがとうございます。それから、例の件の振込はユウさんの口座に振り込ませて頂きますね」


あれ? 話したの? まあ、ユウもお巡りさんも喜んでるみたいだからいいけど。


スキルや魔法を得るためには、強い思いの他に、レベルや特定のステータス値が一定値を越えてる等の他に、今までダンジョンに滞在した合計時間も関係あるようだと、特別に教えてくれた。ユウはダンジョン入口までしか入ったことがないので、穴の中に入った時点でカウントされるのだろう。





安全、安心、高収入だと思われていたダンジョンは少しづつ危険さを増していく。





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