第43話 呪いの正体4


 約40名程の騎士達が乗り込んできたわけだが、半数は司祭様を連行するのに同行することとなり、残りの半数がこの聖堂の中を調べ上げるために残ることとなった。



 時刻はうっすらと朝の気配を感じるとはいえまだ早朝。それも、鳥達も目を覚まさぬ時刻だ。


 とても疲れた。

 それなのにアドレナリンが出て興奮しているのか、眠気は無い。


 はぁ、と聖堂の中の椅子に座って肩の力を抜く。それでもやはり、こんな状況でホッとひと息リラックスとはいかない。

 今になって扉に体当たりした肩が痛み始める。

 じんわりと肩に広がる鈍い痛みは、先ほど起こったことが現実であると私に実感させているようだ。




「大丈夫ですかお嬢さん」


「ええ、はい。私は大丈夫です。そちらの聖女様の方が大変だと思うので、保護してあげてください」




 残った騎士達の中から、若い騎士の1人が、そっと駆け寄り、回復薬を手渡してくれた。

 私には必要がないので回復薬は受け取らずに、聖女様に渡すように促せば、「わかりました」と快く頷き、少し離れた場所に座り込んだ聖女様に渡してくれた。

 その様子を見届けると、なんだか急に疲れがどっと押し寄せてきた。


 聖女様のすっかり変わってしまったあの姿を思い出す。

 前世のテーマパークでよくあるような、お化け屋敷に出てきそうな、本物さながらのおどろおどろしい姿。

 本物という表現は語弊があるが、映画の中に出てきそうなお化けの姿そのもの、という意味で本物のようだった。

 

 突如パッと目の前に現れてゆっくりと近づいてくる姿は人間では絶対にない動きだった。


 思い出すだけでも背筋がブルリと震える。


 しかし、私の疲れよりも、聖女様だ。

 彼女は何があったのかは知らないが、魔物に姿を変えられていたようだった。

 そんなことが可能なのかと、信じられない。

 

 姿は取り戻せたようだが、随分と衰弱していたし、心身ともに辛く、悲しいことだろう。

 話の内容も、とてもじゃないが受け入れられる内容ではなかった。こんな非道なことが、自分の知らないところで起こっているなんてショックで仕方がない。


 聖女様の体は、多少の魔力の回復はできたかもしれないが、どれほど回復したかまでは私にはわからない。元々膨大な力を持つのが聖女様だ。

 それを回復まで持っていけるのかは、私も含めて誰にもわからない。


 これからしっかりと検査されることだろうと思う。

 いち国民であり、ただの魔具屋の私に想像できることはこのくらいのものだ。


 それにしても、あの時頭の中に浮かんだ人は一体誰なのだろうか。

 ふと、聖堂の祭壇の奥にいる聖女様の像を見上げる。

 

 頭の中の声。

 これが神のお告げというものだろうか。

 聖女様は神ではないけれど。


 非現実的で、自分らしくない。

 前世の自分と比べ、どうもこの世界が私を空想家にしてしまうらしい。


 でも、人を助ける事ができた……。まぐれでも、奇跡でも、私が1人の女性を助ける事ができたのだと思うと心にぽわりと幸福感が湧き上がる。



「ん?」


 カツカツと靴裏を鳴らし、こちらに近づいてくる姿が2つあった。



「はぁ、この国の聖女を束ねる指導者が騎士達に連行されるとなると相当なニュースになる事だろう。とんでもない時間の連行と相成ったが、それを考えると、昼間じゃなくて良かったとホッとする」


「サンジェル隊長は気が小さいからな」


「お前なぁ」


「あ、そうそう、僕の天使のステラです、サンジェル隊長」


「えっ! て、天使!?」



 天使、英語でエンジェル。

 フランス語でアンジェ。

 ドイツ語はなんだっけ?


 天使ってなんだっけ。


 天使?それは誰だ。



 聞こえてきたディオの声に、ギョッとして会話の発信元を見ると、ディオと一緒に並んだ大柄のクマのような体格の男性も私と同じように目をまんまるくしてディオと私を交互に見ていた。

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