第15話 乾坤一擲待ったなし
ある日突然店に現れたハイパー変態マゾ戦士その名もディオ。
もう一回言うね!
ハイパー変態マゾ戦士ディオ!
彼によって店の半分持ってかれたんだけどあいつの金銭感覚まじどうなってんだってばよ。
「最初は随分と横柄な態度と言葉遣いで、「うわこいつめちゃくちゃ嫌なやつだなー」と思ってたしんだけどさ。それに恐怖を感じるほど近寄ってくるし、聖女様もダメだし、もーほんとよくわからないけど回復薬も魔法も逆効果だったし、極め付けに、私の毒魔法を嬉々として受けたい、お前の力を僕にくれ〜とか言ってくるんですけど、ジャスティンの言ってたディオってこの人で合ってるんだよね?」
「いや……そんな奴じゃないな。誰だそれは」
「嘘でしょ?」
じゃああれ誰だよ。
ディオという変態を店から追い出し、無事その日を終えて数日、ディオがセナード製の魔具を大量に買っていってくれたおかげで大黒字で万々歳。半年はダラダラしても良いかなーというくらい余裕なわけだが、品数は薄くなったとは言えど、それでも何かしら毎日魔具を必要としてくれるお客様がいらっしゃるので、店は開けている。
そんなある日、後日自分も来るから、と言っていたジャスティンが宣言通り店にやってきた。
2人で店内のレジ台を挟み、椅子に座って井戸端会議スタイルである。
このあたりは接客業を営む店も多く、特段休日や連休がない昼間や夕方は学校の文具や魔具の店や、薬品店以外は客足が途絶えるので、こうやって店の中で休憩がてら話すのはよくある光景、定番スタイルなのである。
場所によっては休憩のお菓子やお茶なんていうのをつまみながら、お客さんも巻き込んで世間話なんていうのどかな光景も見たりする。
なので、誰かに咎められるほど不真面目なわけでもないのだ。
もっとも、それが許されているのは観光客が少ない平日などだけだが。
「しかし物が少ないな。棚がガランとしているじゃないか。資金不足かなにかか? もし入り用ならすこしくらいは貸せるが……年利15パーセントでいいぞ」
「ああ、大丈夫。心配しないで。これはディオが大量に魔具を買っていったの……ってジャスティン、お金に関してはちゃっかりしてるじゃない……」
まぁな。金は大事だろう、とジャスティンは深く頷くと、続いて「そうか……」と呟いた。
そして考えるように腕を組んだ。
「今の話を聞くとその奇怪な行動をとった人間は俺の知っているディオに似ているな。あいつは何故か金は持っているから金払いは良い」
「お金の話ばっかりね」
「……その人間は男だったか?」
「えっ何急に、男、だったと思うけど……」
ジャスティンはふむ、と一瞬間考え込んだかと思えば、すぐに口を開いた。
どうも、自身の思い描くディオという男と私が出会った「自称ディオ」は全く違う様な人物像らしい。
「顔色は? 悪かったか?」
「あー、顔色が悪……かったけど、刺青で半分黒かったからうーん……でも、体調はよくなさそうだったよ」
「そうか。いつも通りだな」
「え、いつも体調悪いの? 大丈夫? あなたの方のディオ」
「ああ、いつも悪い。だが大丈夫だと言っていたぞ」
「へぇ……あ、じゃあじゃあ、君の毒を喰らいたい! だとか君は天使だ〜! とか普段から言っちゃう系だったりはする?」
「なんだそれは気味が悪いな」
ドン引きだ。
ドン引きをしている。
形のいい眉が左右チグハグに曲がり、口端はヒクヒクと引き攣ってしまっている。よほどの嫌悪感を感じる顔だ。
わかる。
多分私も同じ顔してた。
しかしどうにも話がチグハグで繋がってこない。私が遭遇した人物とジャスティンが言っている人物が一致しないのは何故だろう?
「あいつはそんな事を言う様なやつではないと思うが、本当に……?」
おかしいな。
おそらく見た目は一致しているはずなのに中身が擦り合わない。
2人で首を傾げていると、突如扉が
——バシン!!
と大きな音を立てて開いた。
あまりに大袈裟な開き方をしたので、扉自体がミシリと悲鳴をあげた。
「お邪魔するよ! ステラ! 君の毒をお願いできるだろうか!」
「……ディオ!?」
「ディオ……」
思わずこぼれ出た言葉がジャスティンと被る。
まぁまぁマゾっ気抜群の言葉と共に、店内に颯爽と現れ店に飛び込んできたディオを見た後に、ジャスティンを見ると、ディオに釘付けだった視線をゆっくりとこちらに向けた。
「あれはディオだな」
「……一緒じゃんか」
受け入れられない気持ちが強いのか、ジャスティンの顔はよくわからない気持ちを持て余しているのか、表情が抜け落ちている。
無の顔だ。
「あ? おいこらジャス! お前僕の天使に近づきすぎだ。離れろよ」
「これは間違いなくディオだ。久しぶりだな。様子がおかしいがどうしたんだ?」
「あー? いつもと変わらないだろ僕は」
「いや、かなりおかしいが」
ズンズン店内に入ってきたディオはジャスティンの存在に気がつくと恐ろしい速度でジャスティンに掴みかかり、胸ぐらを引っ張り上げた。
かなり強めに掴み上げられているが、ジャスティンは飄々としたもので、呑気に片手をひらひらさせて挨拶をしている。
「ちょ、ちょちょ、やめてよ。店内で騒がないで!」
「ああ! すまない、ステラ。では早速僕に君の毒を」
「ちょ、嫌ですよ」
急に私に視線が向き、手を開いて閉じてと怪しい動きをさせてディオが近づいてきた。怖い。
ささっとジャスティンの後ろに隠れると、それを見たディオが悲鳴をあげた。
「なぜ!」
「おい、ディオ。お前何を言ってるんだ?」
後ろに隠れた私を庇う様に匿ってくれたジャスティンは、不思議そうに問いかけると、ディオがふふんと得意そうに目を細めた。
「いいか、ジャス。僕は出会ってしまったんだ。僕のために存在する魔法の存在を。それがステラ。彼女なんだ」
「はぁ」
「おい、生返事やめろ。運命だぞ。僕はこの出会いに金は惜しまない。それだけの価値があることは確信した」
「?」
ディオがそっとジャスティンの手に何かを置いて、握りしめる様に両手を添えた。
ジャスティンが手の中を確認すると、私の顔をそっと覗き見た。嫌な予感がする。
「……ディオはいいやつだ。協力してやってくれ」
「ちょ、ジャス、ジャスティン!? え? はっ……!」
すっと音もなく離れていったジャスティンは、私とディオを残してスタスタと扉へ向かい手を振って出ていってしまった。
その手には金貨が握られていた。
なんてこった!
あいつ、買収されたな……!
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