第16話 乾坤一擲待ったなし2
「それではお願いしたい」
「それではって言われても……」
閉店準備を進める中、もはやあなたがこの店の主人なのではと言う様な堂々とした態度で椅子に腰掛ける男、ディオが口を開いた。
その粗雑な物言いとは反して、姿勢は美しくそのスタイルの良さも相まってどこぞの貴族様の様な上品さだ。
「君の毒魔法の件」
明日の開店のための在庫確認や棚へ補充する作業の手を止めてディオを見る。
先日は見るからに体調が悪そうだったが、今ではけろりとしたもので、口笛でも吹かんばかりにご機嫌な様子だ。
ニコニコと言うよりはニヤニヤとしている、と言う表現がよく似合う笑みで優雅にお茶を啜っている。
せっかく来てくれたけど、もう閉店の作業をするのでお帰りくださいね、と言ったらその後で時間が欲しいのだ、と言われたため、お茶でも飲んで待っていてもらっている。「できればここに君の毒魔法をかけて欲しいのだけど」というとんでもないお願いが飛んできたが、無視をして普通のお茶を出した。
口先を尖らしてつまらなそうな顔をしていたが、普通はそんなお願い聞けるわけがない。
誰が進んで人の茶に毒を仕込む奴がいるんだ。
頼む方も頼む方でどうかしている。
頭がおかしいとしか言いようがない。
店内の作業が終わると、店の外へ出て入り口に閉店の看板を立てる。
これで今日の営業は終了。父や母から物が送られてくれば、それを点検した上で店頭に並べる。
使い方などは両親がメモに残してくれているが、一応こちらに届いた時に調べたり試運転したりして確かめなければならない。
時々変わった部品や魔法を使った魔具が届くので、それを一つ一つ製品表に落とし込む作業が地味に大変なのだ。
新しく開発したものは、両親が私の元に送る前に申請書を国に提出してるはずなのだが、許可されると製品表と言って製品に記載しておかなくてはならない表記が存在する。
それが結構骨が折れる。
大概は回復薬であったり、マントであったり、すでに店に置いてある商品を作って送ってくると言う事が多いので、新製品は年に何度か、と言うくらいだ。
今日はそう言った物も届いていないので、本当に終了である。
「ステラは学生?」
ディオの手の中にはいつのまにかティーカップではなく分厚い本が収まっていた。私の教科書だ。
刺青なのか、元々なのかわからない黒い手がぺらりとページをめくる。
学生。
つい学生という言葉に体が固まる。
「あ……まぁ……いいえ、うん、学生……だったんだけど」
「やめたの?」
「違うけど……退学になったの」
「へー、ああ、そう。ステラの魔力量は相当なものだと思うけど……今の学校はマヌケなもんだな」
パタンと閉じた分厚い教科書の上で片肘をつき頬杖をついたディオは、呆れたとでも言う様に言った。
吐き出したと言った方が適切な感じもする言い方だ。
魔力は、確かに多いとは言われた。しかしやはり学校がマヌケだとは思えない。
退学、という判断は妥当であり仕方がない事だと思う。
様々な魔法の使い方を学んで行く場所、失敗や成功を繰り返し、うまく魔力を操る場所。
だんだん上手くなっていく場所だ。
口に出すのは複雑な気持ちだが、事実であるので仕方がない。
「私が退学になったのは、何故か......私の魔法が全て毒魔法に代わってしまう事が原因なのよ」
「ほぉ」
驚いた様にディオは目を丸くしていたが、すぐに怪訝そうな表情に変わる。
「この辺の学校といえばシャルム魔法学校だったかな。この国の中でも十分に優秀な魔法師が揃ってるはずだけど」
「そう、みたいね。でもダメだったの」
悔しいけど。
私もそれは思わなかった訳ではない。
入れば誰もが卒業できる学校。そう言われるのは先生も優秀である事も要因だ。
「ふぅん……もしかしたら僕それなんとかしてあげれるかも」
「えっ! ほんと?」
ボソリとつぶやかれた言葉に、驚いて駆け寄れば、ディオがにっこりと微笑んだ。
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