第13話 狂った空間3
魔力というものは、人によってその量が違うと言われている。
例えば学校の先生。
担任の先生だったバル先生は体が大きく、魔力が豊富なパワータイプに見えるのだが、魔力がかなり少ないタイプだったそうだ。
生まれつき身体についていたタンクの容量が小さく、少し魔力を引き出す量を間違えてしまうとすぐ空っぽになって体を動かすこともできなくなるのだそうだ。
保健室にいるタルル先生は元々タンクが大きく一度にたくさん使っても一気に減ってしまうことは無い。
ちなみに小柄で妖精のような先生だ。
体のサイズには関係なく、魔力のタンクはそれぞれ生まれつき決まっているのである。
この魔力の量を学校で知り、自身がどのように魔法を扱っていけばいいのか、どのようにコントロールすれば魔力の差を埋めれるかを勉強する場でもある。
バル先生は手先がとても器用なので、魔力のコントロールに非常に長けていて、卒業する頃には何倍も魔力量に差のある生徒と互角かそれ以上に渡り合うことができたのだと言っていた。
一方、タルル先生は妖精さんのような見た目に反して大雑把で適当な性格ゆえに魔力量が豊富であってもすぐに魔力切れしてしまう。
しかし対象が逃げたりしない回復を専門に扱うことで上手く魔力を活用する事ができるようになった。
つまり魔力の使い方の適性を見極めることに成功したのだ。
私はといえば。
たった数ヶ月しか学校に在籍できず、どんな魔法が得意なのかも定かでは無いが、魔力量が相当膨大だということだけはわかっていた。
まぁ、わかったことはそれだけで、魔法をいくら使っても疲れない、イコールどの魔法にどれほど魔力を注ぎ込めば完成か知らないのである。
これくらいだよ、って量はなんとなくなテイストで教科書には書かれていたが、なんとなく。つまり感覚。
つまり実践をして初めて自分に合う分量がわかるということだ。
◆◆
体の中で波打つような魔力が体の中を駆け巡り、手に流れていくのがわかった。
手のひらから光の粒が産まれてはふわふわと1箇所に集まり、私の手とディオの身体の隙間で浮遊する。
ーーーーー成功して……!
ーーーーー治して!
そう強く願えば、ぶわりとその光がディオを包み込んだ。
魔法が完成していくのと同時に、澄んだ空気が室内に充満し、布の擦れる音や、指が微かに動き床を掠める音。
それらの全てがどれもはっきりとわかる。
すう、とディオが息を吸い込む音が耳に入ってくる。
そして…………。
ーーーーバチン!!
店内に響き渡った大きな音と共に、光が弾け、バシャリと毒々しい紫が小さな泉を作り出した。
ディオサイズの。
紫のインクに漬け込まれた青年はびくともせず、静寂を守っている。
「ーーーーーーっいやー!」
失敗した!
失敗してしまった!
来客のない店内は、静まり返ったままぽたん、ぽたんと虚しく滴り落ちる紫の毒の音が響くだけだ。
「あああ、はやく、解毒を、早く警備と、えと、聖女様、聖堂に連絡を……っ」
聖堂? 聖女様へ手紙伝達を?
それとも、それより、と混乱と焦りで横たわるディオそばで狼狽えていると、ジュワっという音と共に毒は霧状になり一気に視界を悪くした。
突如がしり、と腕を強い力で掴まれた。
ハッとして腕を見れば、紫の霧の中から伸びる、入れ墨がびっしり入った真っ黒な手。
「な、なに!?」
反応が追いついていないままに、次に霧の中から見えたのは、ブワリ、と風を切り、近づく何か。
「ひ、」
人間咄嗟の時はいくら練習をしていても上手く反応出来ないもので、私ができた事と言えばぎゅっと目を瞑り、顔を背けて事くらいだった。
「……なんだこれは……」
耳に入ってきたのは、ディオの驚愕の色が混じる声だった。
恐る恐る目を開くと、ぼやけた視界がだんだんクリアになり、身を乗り出すように私を覗き込む黒い顔が見えた。ディオだ。
「あ、ああ……よかったぁ……死んでない〜」
「ああ、生きてる。いや、それよりコレ。コレは」
「え?」
徐々に戸惑いから、確信に変わったように強くなる声色に、首を傾げる。
あれだけの毒魔法を浴びせてしまったんだ。
もしかしたら混乱状態……なのか?
何かを考えているような仕草をしていたディオが、突如こちらに向き直ると、ぎゅううっと両手で私の腕を捕まえてきた。
ギョッとして手元を見ると、キュッと強く握られた黒い手越しに、キラキラと輝く瞳のディオが見えた。
え、なに?
こわい。
「君は僕の天使だったのか!」
「は?」
こわっ。
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