第4話怠惰な生活

羽鳥愛梨に血を吸われてから、一週間が過ぎた。僕は結局、一週間会社を休んだ。職場には連絡もせず、ずる休みをしている。

その間、どうしていたかというと絶世の美女である羽鳥愛梨とただただ怠惰な生活を送っていた。

朝から晩まで羽鳥愛梨とアニメを見たり、ゲームをしたりして過ごした。

「仕事なんかしないで、私とこうしてる方が楽しいでしょう」

コントローラーを握りながら、羽鳥愛梨は言った。

確かに彼女の言う通りだ。

生活のためとはいえ、やりたくもないことをするよりはこうしてそこらのアイドルよりも可愛くてスタイルの良い羽鳥愛梨とイチャイチャする方がいいに決まっている。

こうして怠惰で楽しい生活を送る方がいいに決まっている。本当に労働は無駄だ。害悪だ。百害あって一利なしだよな。


「私、晩ごはんの用意買ってくるね。じゃあ……」

じゃあの言葉の後は決まっている。

羽鳥愛梨は口を大きく開き、僕の首筋を噛む。ごくりと一口、血液を飲む。

一日一回、こうすることによって彼女は人間性を保てるのだと言う。

一口とは言え、血をのまれると貧血に似た症状に襲われる。

ぼんやりする頭で僕は彼女を見送る。

僕は羽鳥愛梨に血を提供する代わりにこうして生活の面倒をみてもらうことになった。

生活費のほとんどを彼女が出してくれている。

羽鳥愛梨の実家はかなりの資産家で、生活に困ることはないのだという。それに彼女自身もいくつもの優良企業の株式を持っていて、預貯金なんかはかなりあるという。

血を飲ませるだけで、働かずにすむなら、僕はこの生活でいいと思った。

それに絶世の美女である羽鳥愛梨がずっとそばにいて食事の用意やなんかをすべてやってくれるのだ。しかも毎晩一緒に添い寝してくれる。もう何も言うことはない。



翌日、僕は久しぶりに出社した。

もちろん、仕事をするためではない。

退職届をだすためだ。

一週間も無断欠勤した僕が、久しぶりにきたと思ったら退職届をだしたので上司である部長は驚いていた。

本当にそれでいいのかときかれたので、僕ははいとだけ答えた。

会社があるビルから外に出ようとした僕を誰かが呼び止める。

「影山君、ねえ影山君待ってよ」

息をきらして誰かが駆け寄る。

振り向くと同期の佐伯さえき未来みらいであった。同期だが、彼女は短大卒なので二つ年下だ。背が低く、目がくりくりとしたけっこう可愛い女性だ。もちろん、毎日羽鳥愛梨を見ているので、見劣りするのは否めない。


「どうしたの?」

僕は訊いた。

なんのようだろうか?


「ねえ、どうして会社やめちゃうの?」

涙目で佐伯未来は僕に訊く。何故だが知らないが、僕の手を握っている。

「もう働くのが嫌になったからだよ」

僕はその手をほどこうとする。

早く帰って、羽鳥愛梨に血を飲ませてあげないといけない。そうすると彼女はその豊満な胸に顔を押しあててくれるのだ。そしてその後キスとかいろいろしてくれる。ボクたちは大人だからね。


「やだっ、影山君いかないで」

どうしてか佐伯未来はなきながら僕の手を引っ張る。


もう、お前なんかにかまっている暇はないんだよ。

僕は力をこめてその腕を振りほどこうとする。しかし、どんなに力をこめても腕を振りほどくことはできない。逆に引き寄せられてしまった。

くそっ、なんて力だ。

佐伯未来は僕に無理矢理抱きつく。

やめてくれ、僕は羽鳥愛梨だけに抱かれたいのに。

「やだっ、離さない。影山君は私のものになるの!!」

叫ぶように佐伯未来は言うと僕の首筋に噛みついた。間近で彼女の顔を見ると異常に発達した犬歯が見えた。それは見慣れてものだった。吸血鬼の牙だ。

ごくりごくりと喉をならして佐伯未来は頸動脈から血を飲む。

急激に血を吸われて、僕は意識を失った。

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