第9話 騎士団の役割

 広い湯殿に案内されたヴェンデルガルトは喜んで、ビルギットと共にその湯に身体を忍ばせた。ヴェンデルガルトは華奢で可憐な容姿だが、十六歳の成人した女性らしく胸は大きく張り腰から臀部は美しく滑らかなカーブを描いた魅力的な身体だ。

「ヴェンデルガルト様は、お美しいお体ですね」

 カリーナが、うっとりとした吐息でそう褒めた。

「本当に、ヴェンデルガルト様は素敵に成長されました」

 ビルギットも、大きな胸の女性らしい体だ。二人に褒められて、ヴェンデルガルトは恥ずかしそうに湯の中に深く浸かる。


「……あの、カール様は黄薔薇騎士団と申されていましたが……まさか、他にも違う色の薔薇騎士団があるのですか?」

 しばらく躊躇ってから、ヴェンデルガルトはカリーナに尋ねた。その問いに、カリーナは皇帝とヴェンデルガルトが対面した時の為に、現在の皇国の説明を始めた。

「今はアンドレアス皇帝が国を治められております。我が皇国には五薔薇騎士団がございます。赤薔薇騎士団は、全ての薔薇騎士団の頂点であり皇族の護衛を任せられています。団長であり総帥はアンドレアス皇帝の第一皇子の、ジークハルト様です」

 ヴェンデルガルトとビルギットが頷く。カリーナは続けた。

「白薔薇騎士団は、外交・災害地の救援支援を行います。団長は、アダルベルト宰相の次男のギルベルト様です。幼い時に高熱で目が不自由になられました。けれど、大抵の事は不自由なく執務をこなされています」

「まぁ、目が……」

 ビルギットが驚いたように呟くが、ヴェンデルガルトは何故か瞳をキラキラとさせていた。

「黄薔薇騎士団は、魔獣が現れた時の最前線で戦われます。団長はご存知のように、ジークハルト様の従兄弟で、フォーゲル侯爵家の長男のカール様です」

「カール様は、王位継承権もお持ちになるのですね」

 ビルギットが頭の中で整理しながら、カリーナに尋ねた。カリーナは「はい」と返事をして続けた。

「青薔薇騎士団は、魔獣討伐の際の後衛で黄薔薇騎士団を助けられます。あと噂ですが――我が皇国に脅威になる国や蛮族の調査や討伐に向かう任務も任されていると聞きます。団長は、ジークハルト様やカール様の従兄弟です。クラインベック公爵家の長男で、勿論王位継承権をお持ちです」

「まぁ……それは、物騒ですね」

「最後に紫薔薇騎士団です。城の護衛と来賓の護衛を任されていらっしゃいます。団長はランドルフ様。ジークハルト様の弟君で、第二皇子です」

「まさか、イケメンの五薔薇騎士団!」

 突然ヴェンデルガルトが大きな声を上げたので、カリーナとビルギットが驚いたようにヴェンデルガルトに視線を向ける。

「イケメン? とは、何でしょう……?」

「何でもないの、大丈夫! カリーナ、教えてくださって感謝するわ」

 不思議そうなビルギットに慌てて手を振り誤魔化して、説明をしてくれたカリーナに礼を言った。


「いいえ、ヴェンデルガルト様が知っていると、これから役に立つかと思いましたので。ヴェンデルガルト様、お体を洗いたいのですが――そのネックレスは?」

 ヴェンデルガルトの体を洗おうと促したカリーナは、ヴェンデルガルトがネックレスをしたままである事に気が付いて、それを外そうと手を伸ばした。


「これは駄目!」


 ヴェンデルガルトが、慌てて身を引いてその手から逃げた。カリーナは驚くが、その彼女にビルギットが申し訳なさそうに説明をする。


「あのネックレスは、ヴェンデルガルト様の宝物なんです。古龍がヴェンデルガルト様に送ってくれた、大切なもの」

「そうだったのですね、大変失礼しました。ネックレスが傷つかないよう、気を付けます。さ、ヴェンデルガルト様こちらに」

 カリーナは深く聞く事なく、また丁寧にヴェンデルガルトに接してくれる――優秀な子だわ、とビルギットは心の中で安堵した。


 そうして身体と髪を洗い湯殿を出ると、他のメイドも何人か手伝いに来てくれて髪を乾かしてくれ、ブラシで髪を整えてくれた。新しい下着を身に着けると、ビルギットにはカリーナたちと同じようなメイド服。ヴェンデルガルトにはリボンで飾られた大きな箱が三つ用意されていた。


「ヴェンデルガルト様、カール様よりドレスのプレゼントが届いています。よければ、お召しになられませんか?」

 微笑むカリーナに、ヴェンデルガルトはぱっと笑顔になった。

「まあ、なんて優しい方なのかしら! ビルギット、どれにしようかしら?」

 箱を空けて、ヴェンデルガルトと二人のメイドは楽しそうにドレスを広げた。


 ヴェンデルガルトがくしゃみをしそうな頃には、ようやくカールが最初に選んだ薄桃色のドレスに身を包んでいた。

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