第10話 カールとお散歩デート?
「皇国に脅威があるか調べろ? ジークハルト、何言ってるんだ。彼女がそんな事する筈ないだろ」
ジークハルトの執務室を出たカールは、ヴェンデルガルトが皇国に何かをする気がないか探れ、と言われた事に怒っていた。ヴェンデルガルトの部屋に向かう最中、すれ違う騎士たちが普段温厚な彼が怒っている様子に、少し驚いた顔で振り返っていた。
複雑な気持ちのまま、カールはヴェンデルガルトの部屋をノックした。
「どうぞ」
中から聞こえたのは、カリーナの声だ。湯浴みから帰っている事し安心して、カールは中に入った。
「カール様!」
途端目に入ったのは、古めかしいドレスではなくカールが選んで送ったドレスを着た、笑顔のヴェンデルガルトだった。その可憐な姿に、カールは少し呆けたように見つめてしまった。
「素敵なドレスを有難うございます、選ぶのに困りましたわ」
「どうですか?」とくるりと舞ったヴェンデルガルトに、カールは赤い顔のまま「素敵で、よく似合っています」と呟くので精一杯だった。
「折角のお天気ですし、カール様はヴェンデルガルト様を庭にご案内して下さりませんか? 私は、ビルギットさんに今のメイドの仕事の説明をしたいんです」
「まあ、庭に?」
カールが何かを言う前に、ヴェンデルガルトが嬉しそうな声を上げた。期待に満ちた顔で見上げられると、カールは断る事が出来ない。
「ヴェンデルガルト様、退屈ではありませんか?」
城の中庭は、花で溢れていた。時刻は、夕方の四時くらいだ。厳しい冬が終わり春を迎えた今、庭師が丁寧な作業をしたので花はとても綺麗に咲いている。花の名を良く知らぬカールは、隣で嬉しそうなヴェンデルガルトと並んで歩きながら、少し困った様にそう声をかけた。
「退屈?」
ヴェンデルガルトはその言葉に、不思議そうに繰り返して立ち止まった。
「いえ、あの……俺は、女性をエスコートするのに慣れていません。今も、ヴェンデルガルト様に気の利いた言葉をかける事が出来ません。ですから……」
「――カール様は、黄薔薇騎士団の団長で魔獣が現れれば最前線で戦っていらっしゃるのよね?」
意外なヴェンデルガルトの言葉に、カールは不思議に思いながらも「はい」と頷いた。
「とても勇敢で、勇気の必要な事です。カール様は必死にこの国を護っていらっしゃいます。そんな素敵な方といて、退屈なんて――私は、カール様と一緒にいて光栄ですわ」
ヴェンデルガルトの言葉は、カールを赤面させるには十分だった。ヴェンデルガルトに陽の光が当たるとキラキラと輝き、まるで女神のようでカールは眩しそうに彼女を見た。カールは魔獣と戦う時より、ヴェンデルガルトを喜ばせる言葉を探す方が難しかった。
「今は――魔獣が出るのですね。多いのですか?」
カールが言葉を探している途中、ヴェンデルガルトがそう尋ねた。会話が続いた事に、カールはほっとする。
「ええ、春になるとまた増えます。ヴェンデルガルト様の時代には、魔獣は出なかったんですか?」
「ええ……出ても、古龍が退治してくれていたわ。彼にとっては食事だったのかもしれないけれど、確かにバッハシュタイン王国を護ってくれていたの」
ヴェンデルガルトは、確かに古龍を『彼』と呼んだ。古龍には知性があり、会話が出来たと聞く。それに、ヴェンデルガルトは古龍の最後の生贄になったが食べられていない。古龍と彼女の間には、何かあったのだろうか。
「――善い古龍だったのですね」
カールは、ヴェンデルガルトが古龍を懐かしんでいるように感じた。彼女が好意を抱いているのならば、『善い』存在だったのだろう。ヴェンデルガルトは、ふと空を見上げた。もしかしたら、泣いているのかもしれない。
「ええ。でも、今はカール様がいるから私は安心出来るわ」
再びカールに向けた顔は、少し目尻が赤かったが笑顔だった。
「勿論です。俺は約束通り、あなたを護ります――絶対に」
カールの中で、ヴェンデルガルトは出会った時――眠っている姿を見た時以上に、特別な存在に思え始めていた。皇族が彼女を持て余す存在に思うなら、俺の伴侶に――と、思うほどに。
しかし、カールが予想もしなかった事態になるとは。この時は、カールには思いもしなかった。
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