第2話プロデューサーの過去
「オオガネモチノに〜とさんにDM送ったんだよ。勇気を振り絞ってね」
ある日のゲーム配信の最中にムネネムは思い出したかのように口を開く。
「え?」
「大丈夫なの?」
「なんで?」
そんなコメントが数多く流れてきており視聴者は軽い混乱状態にあるようだった。
「いや、だってさ。私をここまで大きくしてくれたのはオオガネモチノに〜とさんであるのは間違いないでしょ?画面越しではちょっとアレなコメントが多いけどさ…きっとリアルではそんな人じゃないと思うんだよね。話の本筋に戻るけど。私ももっと上に行きたいからマネージャーと言うかアドバイザーと言うか…そういうものになってもらいたいって思ったんだよ」
ゲームをプレイしながらムネネムは時折コメントを確認しているようだった。
「危なくない?」
「やばい奴だったらどうするの?」
「危険だと思うな」
「俺がマネージャーになってあげる」
「他にも投げ銭してくれている人も居るよ」
「一人だけ特別扱いするのはおかしい」
そんな否定的な意見ばかりがコメントされている中で僕は今がタイミングとでも言うように投げ銭チャットを送る。
「心配要らない。ママのことは陰ながら応援するだけだから。マネージャー業もアドバイザー業も僕には出来ないよ。ただ投げ銭チャットを送り続けるだけだよ」
数万円の投げ銭チャットを送るとコメント欄は話題の中心である僕に矛を向けた。
「そもそも一回の投げ銭の金額がおかしい」
「ガチ恋なのに会いたくないの?」
「ただの札束ビンタじゃん」
「お前のお陰でムネネムが大きくなったわけじゃないぞ」
「勘違いするな」
「親のスネ齧って送る投げ銭は気持ちいいか?」
この様な罵詈雑言に近い言葉を多く投げかけられていたが僕にとってはそよ風のようなものだった。
ムネネム以外の言葉にはまるで聞く耳を持たずに配信だけに集中していると彼女は少しだけ寂しそうな表情を浮かべる。
「あまりファン同士で喧嘩しないでね?私も一人を特別扱いしようとしたのは悪いけどさ。でもそれぐらい感謝しているって話なの」
ムネネムの暖かい感謝を受け取ると僕は再び投げ銭を送る。
「分かってるよ。ママの気持ちは届いているから」
そんな投げ銭コメントにムネネムはいつもの調子で冷たく僕を突き放す。
「ママじゃないです。やめてください」
一連の流れで周りも溜飲が下がったのか罵詈雑言のコメントは鳴り止んだ。
ゲームが一段落した所でムネネムは本日の配信を終了させる。
僕もアプリを閉じるとウイスキーを飲みながら本日の配信を振り返っていた。
今日も概ね楽しい配信だったと感じているとスマホに通知が届く。
相手は信じられないことに、またムネネムからだった。
「再びで申し訳ないです。私もなんですけど…私の友達のバーチャル配信者にアドバイスみたいなことして欲しいってやっぱり思うんです。貴方は何故かわからないんですけど売れるために必要な事を知っているような気がするんですよ。もしかしてそういう仕事していませんでしたか?」
ムネネムからのDMに僕は過去を思い出していた。
過去にプロデュースした伝説のアイドルグループの彼女たちのことを…。
だが…。
そんな過去の栄光も輝かしいものではない。
僕の手に残ったのは大金だけだった。
彼女らは天狗になったり人の道を逸れたり黒い交際がバレたり。
とにかく散々パパラッチに追われた彼女らは引退をして芸能界から姿を消した。
今は何処で何をしているのかなど誰も知らない。
僕が再び誰かのプロデュースに関わるとして…。
もうあんな思いはしたくないのだ。
家からも出られないほどのショックなど受けたくない。
でも…。
助けを求めている女性を、しかも二回も連絡を寄越してくれたムネネムを蔑ろにするのは如何なものかと思われた。
だから…。
僕は意を決して彼女らのプロデュースをすることを心に決めると了承の返事をするのであった。
後日。
バーチャル配信者の数名の女性と顔を合わせることになる…。
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