ばぶみを感じる画面の向こうの君に全力でおぎゃりたい。今日も架空のママにおぎゃばぶ…

ALC

第1話キモいのはタイトルだけではない…のか?

パソコンを起動して今日も一日はスタートする。

すると言っても現在時刻は十九時になる所だ。

目覚めたのは二、三分前。

シャッターを完全に閉めて内から外界へと続く鍵を閉めた僕は本日も夜に差し掛かった辺りで目覚める。

パソコンのパスワードを入力すると動画配信サービスのアプリを起動させた。

朝に確認した通り、お目当ての相手は本日も十九時から配信を始めるようだった。

待機画面を開いて今か今かとその時を待っていた。

パソコンの側にある小型の冷蔵庫を開くと昨夜の飲みかけのコップに氷を入れてウイスキーを嗜む。

そして放送が始まり本日もコメントをするための何かを期待していた。

「今日は雑談配信ってことでね。えっと…投げ銭チャットの履歴が溜まっているから…それを読んでいこうかな。って大体あの人の投げ銭チャットなんだけどね…。もう既に不穏な雰囲気が醸し出されているけど…流石に無視するわけにもいかないからね。これだけ投げ銭してくれているわけだし。内容はともかく…感謝していることは確かですよ。オオガネモチノに〜とさん…。それでは早速読んでいきますね〜…」

ばぶみを感じる画面の向こうの君は僕を認知していることに喜びを覚える。

ウイスキーを嗜みながら嫌な表情を浮かべてでも投げ銭チャットを苦しそうに読む相手を目にして何とも言えない不思議な気持ちに陥っていく。

アルコールの酔も相まって興奮する材料が揃ってきていた。

「えぇ〜っと…。なんですか?そろそろママに会いたいです…って。私は貴方のママじゃないです。違いますよ?勘違いしないでくださいね。はい。では次にいきます…ってまた同じ人からの投げ銭チャットですね…」

相手は嫌々ながら投げ銭チャットを丁寧に読んでいく。

コメント欄が盛り上がっており僕も少なからずの存在意義のようなものを覚えていた。

何かが満たされていくような不思議な満足感を覚えながら本日も最後まで配信を観てはウイスキーをお供に時間とお金を溶かしていくのであった。



配信が終わると私はふぅと溜息を吐いた。

私が人気になったのは確実にオオガネモチノに〜とさんというファンの御蔭なのは確かだった。

信じられない額の投げ銭に私よりも発信力の強いSNS上での宣伝で私は個人勢のバーチャル配信者だと言うのに有り無いほどのチャンネル登録者数とファンを獲得していた。

「発言はキモいけど…あれは本気じゃないんだよね…私が売れるにはどうするのが最適かを考えてくれているわけで…どうしよう…一度会ってみようかな。普通の人だったら…マネージャーをしてもらうとか…って考えても無駄かな。でも…一度連絡を取ってみようかな…」

近頃散々悩み抜くと答えでも出すように私は彼のSNSにDMを送りつけるのであった。



目を覚ましてSNSを確認して僕は言葉を失う。

「一度直接会ってみません?貴方のお陰で人気者になったのは確かです。人目の付くカフェでなら私も安心できますし…今後の事とか色々話してみたくて…嫌ですかね?」

画面の向こうに感じていた君から直接の連絡を受けて僕は言葉を失う。

僕はこの薄暗い部屋から出られることが出来るだろうか。

外に出て人目に付く場所で話が出来るだろうか。

いや、断じて否だ。

僕はここから出ることは出来ない。

会いたくても相手に会えない。

僕らはネット上でしか関わりを持つことが出来ないだろう。

だから僕は心苦しいが丁重にお断りの返事を送るのであった。



ここから画面の向こうのバーチャル配信者ムネネムと引きこもりニートの僕の物語は始まろうとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る