第八夜 寂れた公園

 私は職場であるコンビニまで原付を使って通勤しています。

 原付で行くということは、帰りも原付に跨って帰るということ。

 雨風を防げる車ほどではありませんが、体力を使う自転車よりは快適で楽ちんです。

 車も自転車も持っていない私は、今日も今日とて原付で通勤していました。


 話は変わるのですが、私の通勤時に通る道の横に、とある寂れた公園があります。

 かつては多くの子供達が遊んだのでしょうか。ブランコに滑り台、シーソーに謎の生き物の乗り物などの遊具が存在するのですが、どの遊具も錆びつき、長年の劣化によってか塗装が剥がれていました。

 前に昼間にこの公園の前を横切った時は数人の子供がブランコをしていた記憶があります。

 私の通勤時にも極たまにですが、高校生か大学生くらいの方達が公園内のベンチで駄弁っている姿を目撃しました。

 ですがそれはあくまでも通勤時です。もっと夜が深くなるころにはそういったたむろしている方もいなくなる。

 とても静かで、どこか不気味な雰囲気を漂わせている公園でした。

 と、まぁなぜ公園の話をしたのかと言うと、今日私は出勤したはいいものの、いやに寒気を覚えて、外原さんの指摘を受けて風邪を引いていることに気がつきました。

 店内で測ったときはまだ微熱でしたが、これから悪化したらいけませんし、お客様に風邪を移すわけにもいきません。

 私は外原さんに促されて、ちょうど日付が変わる頃に早退することになりました。


「原付でよかったぁ」


 今は心から原付があってよかったと思います。この倦怠感の中、体力を消耗させながら家に帰るのは想像するだけでも大変ですから。

 私は原付に鍵を差し込み、跨ると通い慣れた道を走りました。

 体がだるくて一刻も早く帰りたい気持ちはありますが、速度超過することはできません。

 私は法定速度を守りつつ、件の公園の横を通りました。

 いつものようにそこには誰も居らず――と、思いきやブランコに独り子供が揺られていました。

 ギィギィと音をたてながらブランコを漕ぐ少女は揺れる度に髪とスカートを靡かせ、つまらなさそうに口角を下げていました。

 まぁ、こんな時間で一人で遊んでいても楽しくないだろうなと思いつつ、私は帰宅しました。

 家に帰ってから体温を測り直すと、コンビニで測った時より体温が上がっていました。

 どうしよう、明日もシフトが入っているのに。そう思いながらも私は倦怠感に襲われそのまま瞼を下ろしました。


 ちゅんちゅんと鳥の鳴き声が聞こえて、私は目を覚ましました。

 時計を見ると、時刻は八時ごろ。

 窓の外を見てみると先程の鳴き声の主である鳥たちが電柱から羽ばたき、道路には散歩している人が見受けられました。

 こんな時間に目が覚めたのは久しぶりです。

 なんだか清々しい気分で、歯を磨き、そして昨日私は熱を出して早退したことを思い出しました。

 身支度を終え、体温を測ります。

 昨夜の倦怠感はなくなり、気分的には随分と楽ですが念のためです。

 ピピッと鳴った体温計を脇から取り出し、体温を見てみると平熱でした。

 早めに家に帰ったのが功を奏したのか、もう元気そのものです。


 私は久しぶりに朝ごはんを食べると、外原さんに連絡して熱が下がったことを一応報告しておきました。

 朝ごはんとして用意したトーストを食べていると、キャーキャーと外から元気な声が聞こえました。

 窓の外を見てみるとそこにはランドセルを背負った子供が三人、遅刻するなどと騒ぎ立てながら走っていました。

 寝坊してしまったのでしょうか。遅刻間際の彼らには申し訳ありませんが、平和的な光景をみて私の頬は緩みました。


 そしてふと昨夜のことを思い出しました。

 昨日は倦怠感やだるくて頭が回っていなかったというのもあって見過ごしてしまいましたが、なぜあんな時間の公園に子供がいたのでしょうか。

 社会人や大学生などが缶ビール片手に騒いでいるのならまだわかります。けれどあの子はどこからどう見ても小学生でした。

 そんな年頃の女の子が一人でいると補導されるだろうし、なにより危険です。

 もし彼女が家を追い出された、などの虐待を受けていたのなら警察に通報するべきだったのでしょうか。


 私は気になって朝食をとり終わると公園まで行ってみることにしました。

 しかしそこには誰もいません。

 昨日女の子が座っていたブランコは風でギィギィと不愉快な音を立てて揺れているだけです。

 そこでふと、何気なく視線を下に向けました。

 ブランコの横、支柱となっている錆びついた鉄の棒の横には雑草のような花のような植物が生えており、その中に隠れるようにかなりの時間放置されていたであろう、風化された封の切られていないリンゴジュースの缶が転がっていました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る