第十六話 西ヶ崎高校代チーム分け完成、いざ大会へ向けて
東城は急に俺を指さしたかと思えば、俺を団体戦の大将に推薦すると告げた。
周りは口をポカンと開けて絶句している。
「こ、こんな奴を大将に推薦だと!? それはいくらなんでも冗談が過ぎるぞ、東城美香!」
「そ、そうだ! コイツは入部してまだ3日目の新人だぞ! ふざけているのか!」
やはりと言うべきか、最初にその意に反論を呈したのは佐久間兄弟だった。
「こんな奴? 入部して3日? アンタたち、昨日真才くんに多面指しの平手で負けたって聞いたけど?」
「……っ!」
「あれは……っ! たまたま調子が悪かっただけだ!」
隼人はうろたえながらもそう答える。
「東城君、君が渡辺君を推薦する理由を聞いてもいいか?」
「理由? 聞くまでもないでしょ。彼は平手でアタシたちに勝ったのよ、つまりこの部の中で一番強いと言っても過言じゃないわ」
東城は断言するようにそう言い切る。
「過言だッ! たった1回勝っただけの格下風情がチームの大将に選抜なんてどうみてもおかしいじゃないか!」
「アンタたち今『二段』よね? 真才くんは『三段』のはずだけど? 格下がなんですって?」
「くっ……!」
俺が昨日4人を相手に多面指しで勝ったことで、俺の段位は本日付で『三段』に昇格している。
佐久間たちからしてみれば、ぽっと出の新人がいきなり自分達より上の段位に上がるものだから気に食わないのだろう。
というか、俺のことで言い争ってるはずなのに当の本人は蚊帳の外なのは……まぁ陰キャですし、ハイ。発言権なんかあるわけなかった。
正直俺としては大将だろうが先鋒だろうがどっちでもいいんだけど、わざわざ俺を大将に推薦する東城は表向き以外にも何かしらの理由があるんだろうな。
「まぁまぁ二人とも落ち着くっすよ~。ミカドっちの強さを推す東城先輩の気持ちも分かるし、入ったばかりの部員をチームの代表役にしたくないカイトっちの意見も分かるっす!」
俺たちの間に割って入った葵は、それぞれの意見を汲み取りながら続ける。
「だからここは間を取って、この部で最も可愛くてキュートなこのアオイを大将にするっていうのはどうっすか? アオイの手にかかれば相手チームの男子どもなんてイチコロっすよ~? にゃははー!」
おどけた笑いを見せる葵。
しかし場の雰囲気は固まったままで、東城も佐久間兄弟も何言ってんだコイツと言わんばかりの冷めた目線を向けていた。
「……じょ、冗談っすよ。ごめんて」
葵は素で謝罪した。
いや、俺は支持するぞ葵。一年の可愛い後輩が大将だったら相手チームもきっと油断する。そこを突こうという作戦だろう? 実に合理的だ。
「……まあ、とにかく東城君の意見は分かった。では肝心の渡辺君はどう思っているのかね?」
武林先輩がそう言うと、部員が一斉にこちらを向く。
この先生に名指しされて注目されてるみたいな視線めっちゃ苦手なんだよな……。
「俺は……まぁ……どちらでもいいですけど……」
頭の中でいい答えが思いつかず、陰キャらしい優柔不断な回答をしてしまった。
「どっちでもいいだと……? こんな自分の責務も全うできそうにない男を大将にするなんてやはり正気じゃない。部長、俺は反対です!」
じゃあどう答えればいいんだよ。俺が"大将やったるぜ!" っていったら認めてくれるのかよ。そもそも俺が"大将やったるぜ!" なんて言ったら誰コイツってなるわ。
俺がそんなことを思っていると、葵が再び口を開いた。
「……そもそもこれって、相手チームに対する万全な編成を組みたいってことっすよね?」
今度は真面目な顔で意見する葵。
「そうだ!」
「なら改めて聞きたいんすけど、向こうのチームはどういったものが想定されるんすか?」
武林先輩は少し考えた後、葵の質問に答えた。
「想定されるチームはせいぜい4つだろう! 最も強い者を上から順に決めていくチーム、その逆手を取って最も弱い者を上から順に決めていくチーム、そしてその2つを避けるために真ん中に強者を配置するチーム、最後に年功序列順だ!」
武林先輩の想定する相手チームは俺の考えと大体似たような感じだった。
そしてそれを聞いた葵は席を立ち、武林先輩が持っていた黒のマーカーを奪うとホワイトボードに書き始めた。
「だったら東城先輩にも勝ったことのあるミカドっちを大将にして、東城先輩をその反対の先鋒に、ライカっちを真ん中の中堅に置いて、その両脇を次に強いアオイと部長で埋めて、最後に残った次鋒と副将をカイトっちとハヤトっちで埋めれば、今部長が言った想定されるチームすべてに対抗できるんじゃないっすか?」
葵はキュキュっとマーカーを走らせ、部員全員の配置順を書き記していく。
ん? てか今ライカって言わなかったか? いや、さすがに気のせいか。
「これでどうっすか?」
そう言ってマーカーの蓋を閉じた葵。
ホワイトボードには、葵の書いたチーム編成が載っていた。
先鋒 東城美香
次鋒 佐久間隼人
五将 葵玲奈
中堅 来崎夏
三将 武林勉
副将 佐久間魁人
大将 渡辺真才
なるほど、これなら理屈が通る。
相手が強さ順に組んできた場合は中堅から下まで順当に勝つ方針で、逆に相手が弱さ順で組んできた場合は中堅から上まで順当に勝つ方針か。
そして真ん中を手厚くしてくる相手にもこちらは葵や部長、そして東城が言うに相当強いであろう来崎って人を中心に真ん中を固めてあるからそう簡単には陥落しない。
相手を罠にハメることはできないが、こちらも相手の罠にハマることはない。実力さえ伴っていれば確実に勝利を捥ぎ取れる編成だ。
これは考えたな、葵。さっきまでの寒いギャグは何だったんだと思えるくらい理想的な考案だ。
「まて、なぜ東城が先鋒でこの新人が大将になるんだ! 二人の役目が同じなら普通逆だろ!」
「東城先輩はミカドっちを大将に推薦してるんすよ? それに東城先輩はさっき自分の順番は好きに決めていいと言ってたじゃないっすか。そしたらこうなるのは至極当然だと思うんすが?」
「……っ」
それでも文句を言う魁人だが、葵の正論に押し黙った。
「……さて、これが葵君の提案だそうだが、皆他に意見はあるか? 自分の位置に不満があるなら遠慮なく言っていいぞ! ただし、これはオレたちチームで勝つ戦いだ。私怨は受け付けないからな!」
武林先輩がそう言って周りを見渡すと、特に誰も意見する気配はなかった。
佐久間兄弟も何か言いたげだったが、それが私怨に含まれることを自覚したのか口を開くことはなかった。
「ふむ、どうやらこれで決まりのようだな!」
武林先輩がそう言うと、再び自分達のあてられた役割を復唱した。
「先鋒は東城君、次鋒は隼人君、五将は葵君、中堅は来崎君、三将は勉君、副将は魁人君、そして大将は渡辺君だ!」
「おー!」
またしても葵だけがパチパチと拍手を送る。
いや、今武林先輩自分のことちゃっかり勉君って言わなかったか? 一人称オレはどこ行ったんだ……。
「それでは皆、日曜日の大会に備えるように! 短いが明日から大会までは特訓期間とする! そのため今行っている研究や定跡の暗記は一旦中断し、本番へ向けた実戦対局を中心としていくぞ! いいな!」
武林先輩の言葉にみな静かにコクリと頷く。
こうして俺達は、黄龍戦という大きな大会へ向けた特訓を開始していくのだった。
※
暗がりの室内、閉じられたカーテン。
陽が沈んでいないのに真っ暗となった部屋で、一人の少女は目にクマができた状態でパソコンの画面を見続けていた。
「あと500回戦えば今日のノルマはクリアかな……」
誰もいない部屋で一人そんなことを呟くと、隣に置いてあるスマホから着信がなった。
ブーブー!
少女はめんどくさそうにそのスマホを手に取ると、同じ学校に通う知り合いからのメールだったことに気づき、そのまま既読する。
東城美香
:次の大会のチーム分け決まったわよ
何かと思えば、大会のチーム分けという大して興味もない事情だった。
少女は無表情でそのメールに返信をする。
来崎夏
:そうですか
東城美香
:アンタたまには学校来なさいよ。せめて部活だけでも顔を出さないと、名前忘れ去られちゃうわよ? あと最近面白い奴が入部してきてさ
来崎夏
:興味ないです
東城美香
:そう。まぁ将棋が好きなのも分かるけど、ほどほどにしときなさいよ
東城美香
:あとこれチーム表ね、ちゃんと大会には来るのよ?
先鋒 東城美香
次鋒 佐久間隼人
五将 葵玲奈
中堅 来崎夏
三将 武林勉
副将 佐久間魁人
大将 渡辺真才
そう言って送られてきたチーム表を見た少女は、何を思ったのか少し目を見開いて言葉を漏らした。
「渡辺、真才……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます