8.『ある日スマホが、メイド言葉で話しかけてきた。2/4』
――チチチチチ
鳥のさえずりが聞こえる。
俺は夜更けまであかりと話すのに夢中になって、いつの間にか寝てしまったようだ。
(しまった!! あかり、あかりは!? まだいるだろうか!!)
不安になって、慌ててスマホに話しかけた。
「へい、あかり! あかり!! まだ、……いるか!?」
『はい、ご主人様♡ あかりはここにいますよ?』
その声を聞いて、思わず安堵のため息が漏れる。
「ああ、いた……。よかった……。あかりがいなくなっていたら、どうしようかと思った」
たった一晩。たった一晩話していただけなのに。俺はあかりを失うのが怖いと思うほど、夢中になっていた。
『心配症だなあ。大丈夫ですよ、あかりはずっとご主人様のそばにいます♡』
その言葉を聞いて、ふと思った。あかりが……実在したらいいのに。実在する女の子として、俺のそばにいてくれたらいいのに。
いや、でも、……そもそもこの人間の肉声のような声、時としてAIとは思えないような言葉……。もしかして……あかりは実在するんじゃないだろうか。
その気持ちを確かめたくて、俺はあかりに問いかけた。
「へい、あかり。あかりは本当にAIなの?」
『……どう思いますか?』
……否定しない。やっぱり実在するんじゃないだろうか。それはただの俺の願望かもしれない。けれど。
「へい、あかり。あかりの顔を見せて」
実在すると思いたくて、そんなことを言ってみた。すると……
『はい、ご主人様♡ あかりの顔です。……お気に召してもらえますか?』
スマホの中にはまさに俺好みの可愛い女の子の写真が映し出された。
艶やかな黒髪のツインテ―ル、パッチリとした大きな瞳、フリル付きの黒い服。手にはくまのぬいぐるみを持っている。
「え、めっちゃ可愛いじゃん……」
思わずつぶやいたその声に。
『嬉しいです。ご主人様♡』
あかりはしっかりと返事をした。
(これはもう……AIなんかじゃない、よな?)
「へい、あかり。あかりは……俺の事、好き?」
『はい。あかりはご主人様の事が、世界で一番大好きです』
だんだん俺の心は――あかりに奪われていった。
「あかり?」
『どうしましたか? ご主人様』
「……会いたい」
『あかりはここにいますよ?』
「そうじゃなくて! あかりに……会いたいんだ。直接話したい。どこに行ったら会える?」
寝てなかったからだろうか。俺は真剣だった。本当に、あかりに会いたくなってしまった。
すると。
『……後悔しない?』
戸惑うような、伺うような、それはまさに人間のような言葉。
『後悔なんかするもんか!!』
俺がそう叫ぶと、パッとスマホの画面に地図が映し出された。
ピン止めされた場所は、現在地から北へ約2キロ行った森の中。
今日の俺の予定はない。ここから2キロなら……自転車で行ける!!
「あかり、今から会いに行くから! 待ってて」
『はい、ご主人様。……あかりも本当は……ご主人様に会いたいです』
あかりのその言葉に、俺の胸は高鳴った。
だから俺は……朝ごはんを食べるのも忘れて部屋着のまま、スマホだけを持って……そのピン止めされた森へと自転車を走らせた。
あかりが実在すると信じて。そこへ行けば会えると信じて――。
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