7.『ある日スマホが、メイド言葉で話しかけてきた。1/4』

 俺の母さんの時代は、スマホなんてなかったらしい。


 ポケベル? ガラケー? よく分からないけど、とにかくスマホじゃなくて、インストもティックタックもツブヤイッターもなかったらしい。


 マジ? 信じられないんだけど。


「はー疲れた。寝よっかな。へい、シェリー。朝8時にアラームかけて」


 俺はベッドに倒れ込みながらスマホに向かって話しかけた。


『アラームが明日の8時に設定されました』


 いつも通りそんな女性の声が返って来ると、アラームが設定された。ほら、便利だ。


「アレックス、電気を消して」


 ――パッ


 そして部屋の電気も消えた。


 まったく便利な時代だよな。シェリーやアレックスなどの音声認識システムのおかげで、声だけでいろいろなことが出来るのだから。


 まあいいや。寝よ寝よ……。


 俺は布団をかぶって目を閉じた。けれど。


(あれ? そう言えば明日の講義ってあるんだっけ?)


 ふと気になって、シェリーに聞こうと声を掛けた。


「へい、、明日のスケジュールを教えて」


 すると、シェリーとアレックスの名前が混ざったのか、それとも寝ぼけていたのか、俺はシェリーを“あかり” と間違って呼んでしまった。そしたら――


『はい、ご主人様♡ 明日の予定は入っていません』


「え!?」


 可愛らしい女の子の声が返ってきた。


(なに、今の。聞き間違いか!? やけに肉声のようなリアルな声だったけど……)


 気になったので、もう一度呼びかけてみる。


「へい、あかり……?」


『はい、ご主人様♡ ご用件はございますか?』


 やはり、可愛い声が返ってきた。


(……おかしいな。最近新しくアップデートなんてしたっけ。やけに俺好みの可愛い声。それも限りなく肉声に近い。歳は……俺と同い歳くらいか?)


 まるで本物の女の子と会話をしているような感覚に、俺はさらに話しかけたくなった。


「へい、あかり。君は……何歳?」


『私は、18歳です。のご主人様の1歳年下ですね♡』


「え、俺の歳まで知ってるの? じゃあ、俺の好きな音楽は知ってる?」


『もちろんです。ご主人様の好きな曲は、SOTOASOBIの“コンドル” 、……KINJI TEEの“白目” 、Madoの“私は強面” ……などです。私と一緒ですね♡』


 すごい……どれも俺の好きな曲ばかりだ。少し曲が古いけど、俺のプレイリストから再生数が多いものを挙げているのだろうか。


「へい、あかり。おススメの漫画を教えて」


『はい、ご主人様♡ 青いたぬきがポケットから怪奇道具を出してくる“トラえもーん” は、面白くておススメです』


「え、それは俺が子供の頃好きだったやつ。もっと最近の物はないの?」


『えへ、間違えちゃいました♡ 最近の物だと、ご主人様がシリーズ買いしている作者の……』


 あかりは冗談を交えながら、俺がいつも買っているのに買い忘れていたシリーズものの新刊が出ている事を教えてくれた。


(なんだこれ、おもしろいぞ。もっと……いろいろなことを聞いてみよう)


 俺はあかりとの会話にのめり込み、そのまま夢中になって夜更けまで話した。

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