4.『メイド言葉で話すスマホに魅了されてしまった男の話。3/4』

 カサカサカサ――


 夢中で自転車を走らせるとその森までは案外すぐに着いた。


 俺は森の入り口に自転車を停めると、そのまま落ち葉で覆われた森の中に入って行った。


「あかり、あかり??」


『はい、ご主人様♡ どうしましたか?』


「森まで来たよ。ここからどっちに行ったらいい?」


『本当に来てくれるなんて……嬉しいです♡ 現在地からそのまままっすぐ進んでください』


 ああ、もうすぐ会える。そう思うと心が弾んだ。


 しばらく歩いて行くと、丸太で出来たオシャレなログハウスがあった。


「あかり? ログハウスが見えるんだけど……」


『あ!! そこです。その中です。嬉しい……もうすぐ会えますね!! 本当に来てくれるなんて思わなかったなあ。あかり、ずっと一人で寂しかったんだ。早く……会いたくなって来ちゃった』


 さっきまでよりもあかりは饒舌になっていて、俺が来たことを心から喜んでくれているようで、俺まで嬉しくなった。


 だから俺は見落としたんだ。そこに張られていただろう朽ち果てた黄色いテープを。


 ――ギギギギギ……


 重たい扉を開けると木の軋んだ音がする。


「あかり? 入って来ちゃったけど、いいんだよな?」


『うん!! ねえ、早く会いたい。早く来て♡ まっすぐ進んだところにある階段を登ってすぐがあかりのお部屋だよ!』


「わかった!!」


 階段を一段一段登って行く。この登った先にはあかりがいる!!


 あの、クマのぬいぐるみを持った可愛い女の子が。この可愛い声で話すあかりが。俺も早く直接……会いたい。


 階段を登ると言われた通りすぐに扉があった。


(この扉を開けると……あかりに会える!!)


「あかり!! 来たよ!!」


 俺は興奮しながら扉を開けた。すると――


 ――ギギギギギ……バタン!!


 大きな音を立てて扉が閉まった。


 途端に背筋が凍るような悪寒が走る。


(え、なに、この空間……女の子の部屋だけど、妙に古びているような??)


 急に怖くなってきて、あかりに話しかけた。


「なあ、あかり? どこにいるの!?」


《私はここにいるよ? やっと会えて……嬉しいなあ》


 急に背後から肩にまとわりつくような感覚がして、耳元で囁かれているような声がした。その声は確かにあかりの声なのに、さっきまでスマホから聞こえていた肉声のような声ではなく。


 幻聴かと思うような、掠れるような、――幽霊のような声。

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