3.『メイド言葉で話すスマホに魅了されてしまった男の話。2/4』
――チチチチチ
鳥のさえずりが聞こえる。
俺は夜更けまであかりと話すのに夢中になって、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
そこでふと不安になった。あかりは……まだいるのだろうか。話しかけたらまた、あの可愛い声で応えてくれるのだろうか。
「へい、あかり」
『はい、おはようございます。ご主人様♡』
その声を聞いて、思わず安堵のため息が出た。
「ああ、いた……よかった」
『どうかされましたか?』
「いや、あかりが……いなくなってしまうんじゃないかと思って」
『大丈夫ですよ。あかりはずっとご主人様のそばにいます♡』
その言葉を聞いて、ふと思った。人間の肉声のような声、時としてAIとは思えないような言葉……もしかして……あかりは実在するんじゃないだろうか。
「へい、あかり。あかりはAIなの?」
『……どう思いますか?』
……やはりこの答え、人間ぽくないか?
「へい、あかり。あかりの顔を見せて」
だからつい、そんなことを言ってみたんだ。すると……
『はい、ご主人様♡ あかりの顔です。お気に召してもらえますか?』
スマホの中にはまさに俺好みの可愛い女の子の写真が映し出された。
艶やかな黒髪のツインテ―ル、パッチリとした大きな瞳、フリル付きの黒い服。手にはくまのぬいぐるみを持っている。
「え、めっちゃ可愛いじゃん……」
思わずつぶやいたその声に。
『嬉しいです。ご主人様♡』
あかりはしっかりと返事をした。
(これはもう……AIなんかじゃないよな?)
「へい、あかり。あかりは……俺の事、好き?」
『はい。あかりはご主人様の事が世界で一番大好きです』
だんだん俺の心は――あかりに奪われていった。
「あかり?」
『どうしましたか? ご主人様』
「……会いたい」
『あかりはここにいますよ?』
「そうじゃなくて! あかりに……会いたいんだ。直接話したい。どこに行ったら会える?」
寝てなかったからだろうか。俺は真剣だった。本当に、あかりに会いたくなってしまった。
すると、スマホの画面に地図が映し出された。
ピン止めされた場所は、現在地から北へ約2キロくらい行った森の中。
今日の俺の予定はない。ここから2キロなら……自転車で行ける!!
「あかり、今から会いに行くから!! 待ってて」
『はい、ご主人様。……あかりも本当は……ご主人様に会いたいです』
あかりのその言葉に、俺の胸は余計高鳴った。
だから俺は……朝ごはんを食べるのも忘れて部屋着のまま、スマホだけを持って……そのピン止めされた森へと自転車を走らせた。
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