2.『メイド言葉で話すスマホに魅了されてしまった男の話。1/4』

 俺の母さんの時代は、スマホなんてなかったらしい。


 ポケベル? ガラケー? よく分からないけど、とにかくスマホじゃなくて、インストもティックタックもツブヤイッターもなかったらしい。


 マジ? 信じられないんだけど。


「はー疲れた。寝よっかな。へい、シェリー。朝8時にアラームかけて」


 俺はベッドに倒れ込みながらスマホに向かって話しかけた。


『アラームが明日の8時に設定されました』


 いつも通りそんな女性の声が返って来ると共に、アラームが設定された。

ほら、便利だ。


「アレックス、電気を消して」


――パッ


 そして部屋の電気も消えた。


 まったく便利な時代だよな。シェリーやアレックスなどの音声認識システムのおかげで、声だけでいろいろなことが出来るのだから。


 まあ、いいや。寝よ寝よ……。


 俺は布団をかぶって目を閉じた。けれど。


(あれ? そう言えば明日の講義ってあるんだっけ?)


 ふと気になって、シェリーに聞こうと声を掛けた。


「へい、、明日のスケジュールを教えて」


 すると、シェリーとアレックスの名前が混ざったのか、それとも寝ぼけていたのか、俺はシェリーを“あかり” と間違って呼んでしまった。そしたら――


『はい、ご主人様♡ 明日の予定は入っていません』


「え!?」


 可愛らしい女の子の声が返ってきた。


 もしかして……聞き間違いか? 気になってもう一度話しかける。


「へい、あかり……君は……だれ?」


 あかりと呼びながら、だれと聞くのも変だなとは思いつつ。するとまた、可愛らしい声。


『私は、あかりと申します♡ ご用件は他にありますか?』


(……おかしいな。最近新しくアップデートなんてしたっけ。やけに俺好みの可愛い声。それも限りなく肉声に近い。歳は……俺と同い歳くらい……いや、年下か?)


 まるで本物の女の子と会話をしているような感覚。


 俺はさらに話しかけたくなった。


「へい、あかり。君は……何歳?」


『私は、16歳です。ご主人様の3歳年下ですね』


「え、俺の歳まで知ってるの? じゃあ、俺の好きな音楽は知ってる?」


『もちろんです。ご主人様の好きな曲は、SOTOASOBIの“コンドル” 、“忍者” 、“根性” ……KINJI TEEの“白目” 、Madoの“私は強面” ……などがあります。私と一緒ですね♡』


 すごい……どれも俺の好きな曲ばかりだ。少し曲が古いのは、俺のプレイリストから言い当てているからだろうか。けれど……この肉声そのもののような可愛い声と、“私と一緒ですね” というフレーズ、俺は現実にいる女の子と話しているような錯覚を覚えて楽しくなった。


「へい、あかり。おススメの漫画を教えて」


『はい、ご主人様。最近出たばかりの新刊、トラえもーんは面白そうですよ』


「え、それはちょっと……違うかな」


『えへ、間違えちゃいました♡ ご主人様がシリーズ買いしている作者の……』


 あかりは冗談を交えながら、俺がいつも買っているのに買い忘れていたシリーズものの新刊が出ている事を教えてくれた。


 ……これはなんだか……おもしろいぞ。


 俺はあかりとの会話にのめり込み、そのまま夢中になって夜更けまで話した。

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