第4話 神っぽいな

 オレが渡したものを食べた腰布ゴブリンが、少しだが言葉を話すようになった。

 なんなん?

 オレが渡したものを食べると、言葉を話せるようになるのん?

 そんなことある?

 これは絶対に確かめねば!


「ちょっと待っててくれ。トモミん。こいつらにもっと食べさせたいから、食料集めを手伝って」

「わかったぁ!」


 2人で森の中を走り食べられそうな物を集めた。まだ少し固いが果物のようなものや、クルミのような味のする木の実を見つけられた。


 まずはトモミんが、小さいゴブリン改めチビリンに木の実を渡した。チビリンは甲高い声をあげながらそれを食べた。変化は無いみたいだった。次にオレが木の実を渡して食べさせる。


「──……い」


 もう一回渡す。


「──ま……い」


 美味しそうに食べている。

 おもわずほっこりしながら果物を渡した。


「──うまいっ!」


 しゃべったぁー!!!

 オレとトモミんで、顔を見合わせた。それから話しかけてみる。


「もっと欲しい?」

「うん! もっと食べたい」


 笑顔、可愛いな、おい。

 じゃなくて、なんじゃこりゃ!

 オレが食べ物を手渡しすると、自動ほんやくコンニャクになるっぽい。面白すぎる。オレは嬉しくなって、とってきたもの全部をほとんどチビリンにあげてしまった。チビリンは嬉しそうに受けとると、腰布ゴブリン改めコシリンに渡した。


「コシリン。あげる」

「──……う」


 コシリンは、受け取って口にいれる。

 それから。今度はこちらを向いて言った。


「──……う」


 コシリンが、なにかを伝えようとしているのがわかった。

 コシリンのその気持ちが、オレのハートに火をつけた。


「トモミん」

「オーケー」

「「レッツ、ゴー」」


 2人で全力で食べ物を集めて、オレからコシ君に手渡しをした。

 食べ物を口にしたコシリンは、下を向いて、震えた声で呟いた。


「──うまい」


 オレはコシリンの横に立って、肩を叩いた。


「だろっ。お腹空いてるとさ、何でもうまいんだよ。食え食え」


 そう言ってどんどん渡した。

 コシリンは、口にいれて、声を漏らして、涙を流し始めた。

 チビリンが、心配そうにコシリンの足に抱きついた。

 コシリンはチビリンの頭を撫でながら、オレ達に向かって言った。


「──ありがとう。妹も喜んでいる」


 え?

 チビリンは妹ちゃんだったの?



§



 コシリンから、色々な話を聞いた。

 コシリンの腰の布は、幼少期のサバイバルを生き抜いた、一人前の証らしい。でも、巣穴のなかでは下っ端で、雑用係のような感じらしい。チビリンは妹ちゃんで、一人前になるまで、コシリンがずっと一緒にいてあげてるらしい。

 他にも色々聞いたが、下っ端と言うこともあってか、知っていることはあまりなかった。まぁいい。必要なことは、追い追い分かっていくさ。


 2人のゴブリンを見送ってから、オレはトモミんに話をした。


「ちょっと良いでしょうか。実は非常に大切なご報告がありまして。なんか、オレが渡した食べ物を食べると喋れるようになるっぽい」

「うん。なんか、あれっぽいよね」

「そうそう。あれっぽい。オレも思った」


 2人で目を見合わせて、声を揃えて言った。


「「神っぽいな!」」


 そう言って2人で笑いあう。


「これって、動物ともおしゃべりできるようになるのかな?」

「わかんない。だからやってみよう」

「やってみようって。えっ、じゃあ、もしかして?」


 ともみんは、横たわる狼もどきに視線を向けた。


「正解。今は気絶してるだけ。手応え的には、たぶん死んでないはず。この子で試したいと思います!」


 この狼もどきと対峙したとき。オレはこの狼もどきの生き様に心が震えた。コイツはオレにとって、敵じゃなく仲間だと感じた。だからオレは、倒さずに気絶させておいた。

 

「じゃあ、早速やってみましょう! トモミん、ちょっと押さえて貰ってていい?」

「りょーかい」


 トモミんが狼もどきを抱えるようにして取り押さえた。そこに、頬を軽く叩き起こす。狼もどきは暴れたが、体勢が悪いのと、空腹のせいだろうか、弱々しい抵抗だった。オレは果物をちぎって、狼もどきの口に入れてやった。狼もどきは、もごもごと噛んで、それから飲み込んだ。それでももう、暴れるのをやめた。もうひとちぎり、果物を口のなかに入れてやる。狼もどきはそれを飲み込むと小さく声をあげた。

 もう大丈夫。そう判断したトモミんは、狼もどきから手を離した。

 オレは残った果物を口の近くに持っていってやる。狼もどきはオレの手をなめるようにして、残りを全部食べた。


「──う」

「う?」

「うま~い!」


 しゃべったー!

 語尾に「わん」とかつくのかと思っていたが、ぜんぜんそんなことはなかった。


「うまいか?」

「もっとくださいっ!」

「いいぞいいぞ。もっと食え」


 狼もどきは、食べ物を口のなかに入れると、わしゃわしゃ食いつき、幸せそうな声をあげた。オレは次々に口のなかに入れていった。そうして、狼もどきはあっという間に、用意していた食料食べ尽くした。


「おいしい! もっと食べたい!」

「そうかそうか。でも今食べたので全部なんだ」

「似た匂い、わかる! こっち!」


 そう言って狼もどきは走り出した。オレ達はその後についていった。狼もどきは、一本の木の下に座ると、こっちを見て尻尾を振った。

 オレは上を見上げた。そうして、ニヤリとする。

 そこには、美味しそうな色合いの果物が、わんさかあった。


「なんかさ、オレ。みんなが食べてるの見てたらお腹すいてきたんだけど、トモミんはどう?」

「私も、なんかまた、食べたくなってきた」

「じゃあ決定」


 ──食べる贅沢を、堪能する!


 オレは木に登って果物を取り、地面に戻った。

 それから、2人と1匹で、心いくまで果物を食べた。

 力がみなぎっていくのを感じる。そうだ。この機会にちょっと試しておこう。オレの謎パワーは、トモミんにも効果はあるのだろうか?


「トモミん、ちょっと実験」

「なになに?」

「今食べてるヤツと、こっちのヤツ。なにか違いある?」


 そういいながら、オレは果物を手渡した。

 トモミんは、受け取って口にいれる。


「あ、こっちの方が美味しく感じる! ヒデの手は、食べ物が美味しくなるゴットハンドだ!」


 やっぱりそうか。

 それにたぶんだけど、美味しくなる他にも、なにやら良い効果がたくさんありそうだ。現に、トモミんの見た目も最初よりも、かなり変わってきている。今ではもう、かなり人間に近い姿に見える。そして、何より。


「肌艶が良さそうに見える」

「本当!? 嬉しい。これはもうあれだね。ヒデ君は料理係決定だね。私が調達するから、ヒデ君が私に食べさせて」


 トモミんがそう言って、頭をオレの肩に乗せる。

 これは、あれだ。

 イチャイチャモードに突入だ。


 そう思っていた矢先に、草むらが揺れた。


 さっきまで幸せそうに果物をもしゃもしゃしていた狼もどきも、臨戦態勢に入って唸りをあげている。

 甘い果物の匂いに、腹ペコの何かが寄ってきてしまったようだ。

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