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 そして、2人を追って園内を進めば、やがて洒落たヨーロピアンな広場が、彼らの目の前に。


 そう、ここが目的のリヒテンシュタイン村のエントランスとなっているんです。


 その向こうに伸びる橋を渡れば、そこはもう同村内。という訳です。


「なんだか本当のヨーロッパみたいだね。行ったことはないけど」


「とっても素敵です〜」

 

 橋を渡った先に窺える、らしき街並みや古城などが再現された風景に、有田くんも史都も感嘆の様子です。


 まあ、後者の場合は、例の如く伝わってきませんけどね。その心情が。


 はてさて、一転して落ち着いた雰囲気。遊園地側に比べて、さほど人影も多くはない中、まもなく史都と有田くんが橋を渡り始めました。


 ところが、それから同橋を半ば辺りまで渡った時のことです。なにやら有田くんが、はたと立ち止まりました。


「どうしたんですか〜、有田くん〜…」


 これまた洒落た外灯の脇、史都も足を止めます。


 見れば、にわかに真顔でもって有田くんが、その史都を見つめています。


 あ、これはひょっとして…


「うん。あのさ、史都ちゃん。例のことなんだけど…」


 そうなんです。実は有田くんは、この場のナイスな雰囲気を利用し、いまここで史都から、告白の返事を貰おうと決意したのです。


 でもそれを、いち早く察したのは、肝心の史都ではなく、


「これはいかん〜」


 ええ、後に続く帝都です。


 彼ときたら、ラジカセを湖都に預けて、いきなり2人の方へと駆け出しちゃいました。なんらかの方法で、有田くんの発言を阻止するべく、です。


 が、


「…い、いや、なんでもないんだ。さあ、いこう」


 やはり有田くんは、ここで返事を貰うのは止めにしました。史都の返事いかんでは、楽しいはずの時間が、気まずいものになってしまう可能性もあるからです。


 ということで、再び2人が歩き出しちゃったものですから、


 ずざざぁーっ…!


 どちゃっ…!


 なんて音を立て立て、帝都は滑って転んで倒れてしまいました。


 慌ててブレーキをかけたものの、勢い余って、です。


「なんてことだ〜…」


「あなた、大丈夫ですか~」


 ラジカセ片手に、湖都が駆け寄ってきます。


「大丈夫だ〜。それより2人を追わねば〜…」


 なんのこれしき。すぐに起き上がったが帝都は、なお懲りずに史都たちの後に続きます。


 一方、史都と有田くんは、一足先に村内へ。


「じゃあ、軽く園内を散歩した後、奥のレストランかフードコートでお昼ご飯にしようか」


「はい〜、そうしましょう〜」


 色とりどりの花が咲き乱れるフラワーガーデンの傍、史都が楽しそうに(といっても、伝わってきませんけどね。これまた)頷きました。

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