9

 その後、園内の遊歩道を進む史都たちの前方に、カップルでしょうか、なにか困った様子の若き男女の姿が。


「どうかしたんですか」


 ふと、有田くんが尋ねてみれば、その彼女の方が、コンタクトレンズを落としてしまったとのこと。


 すると、さすがは有田くんか。長閑な田園風景が再現された中、史都ともども彼は、それを一緒に探し始めました。


 で…


「あ、ありましたよっ」


 皆の注目を一身に、歩道と芝の境目辺りに落ちたレンズを、有田くんが指差しています。自分の手で拾う訳にもいきませんのでね。


 ともあれ、感謝の言葉を受けると共に、あらためて史都と有田くんは歩き出しました。


 それから、徐々に街並みの方へと移動すれば、今度は周辺を右往左往する女の子に遭遇。


 小学校4、5年生くらいか。それは泣いてこそいませんでしたが、なんだか心配になったのか、またも有田くんが尋ねてみると、彼女曰く、家族とはぐれてしまったのだそうです。


 そこで、有田くんは史都と一緒に、とりあえずその子を、近くの管理事務所まで連れて行ってあげました。園内放送で家族を呼び出してもらえれば…と、普通に思ったからです。


 さあ、そうこうするうち史都と有田くんは、レストランやフードコートのある一角へやって来ました。


 いよいよ昼食タイムです。


 でも、レストランの方は学生には高値なので、結局2人は、お手頃なフードコートの方を選びました。


 時間的なこともあって、さすがにこの場は人が多くなっていますが、それをものともせず。有田くんは、史都をテーブルに待たせて、2人分の注文をしに奥のカウンターへ向かいます。


 ちなみに有田くんは、リヒテンシュタイン名物(?)『ファドゥーツ丼』を。また史都は、同じく『フランツヨーゼフサンド』を選びました。


 楽しいひと時。ほどなくして2人が、仲良く会話しながら、それらを食べ始めました。


 そう、この史都を始め楠一家は、なぜか食事はするんです(『人形彼女』参照)。

 

 おや、ちょっと待ってくださいな。


 湖都と共に別のテーブルに着き着き、そんな史都たちの様子を見ていた帝都が、


「湖都〜…帰ろうか〜」


 いきなり、そう言い出したのはなぜでしょう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る