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「…史都〜、あなた彼氏が出来たの〜」


 がらずしゃーんっ…!


 ほんの少し自室のドアを開いて、そこから密かに妻子の様子を窺っていた帝都は、思わず脇のトーテムポールをなぜそんなもんが倒してしまいました。


 帰宅後、しばらくしてからリビングに現れた史都に対し、あまりにもロイヤルストレートフラッシュに、湖都が尋ねたからです。


 ええ、『それとなく』どころじゃありません。


「いえ〜…あのその〜…ママ〜。彼氏という訳ではなく、実は男の子のお友達が出来たんです~」


 まあ、たとえ友人であっても、やはり相手が異性だけに恥ずかしいのでしょう。湖都の向かいのソファに座りつつ、史都が躊躇いがちに答えました。


「なるほど、そうなのね〜。いえね、あなたが男の子と2人でいるのを見かけたって、ご近所の方から聞いたものだから〜。で〜、その彼のお名前は何と仰るの〜」


「同じクラスの有田土岐雄くんです〜」


「有田くん〜…どんな子なのかしら〜」


 湖都としては、あまり干渉せず娘に任せたいのですが、向こうからコッソリ帝都がGOサインを出すので、やむを得ず聞きました。


「とっても優しくて楽しくて、クラスの皆に慕われている人です〜」


「そうなの〜、それならきっと安心ね〜」


 言って湖都が(心の中は笑顔で)幾度か頷きました。


 すると、ちょうど今がいいタイミングと思ったのか、


「あの〜、ママ〜。実は来週の土曜日に、その有田くんからナカジマスーパーアイランドに誘われてるんですが〜、行ってもいいですか〜」


 これまた躊躇いがちながらも史都が言い出しました。


「ええ〜、あなたに任せるわ〜」


 ちらと夫の方を窺ってから、湖都が承諾。さすがに帝都も、止めるまではしないようです。


「ママありがとさんです〜。でも、とりあえずパパには内緒にしておいてください〜。パパに知られると、ちょっと恥ずかしいので〜」


 ずががが〜んっ…! (イタリア人も大ショック)


「あの史都が〜…あの『大きくなったらパパと結婚するっ』と言っていた史都が、私に隠し事を〜…」


 みるみる肩を落とすと共に帝都は、ドアを閉じ閉じ自室の奥へ。愛用のデスク(帝都の職業は作家です)の椅子に、ぺたりと腰を下ろしました。


 と、しばらく落ち込んだ様子だったものの、やがて彼は、そのデスク脇に飾られた(『生前』のものと現在のものと両方の)家族写真を目に、なにやら考え始めた模様です。


 そして…


「そうか〜…来週の土曜日か〜。よし〜」


 なんの決意か、うんっ、と帝都が頷きました。


 どうやら彼は、なにか企んでいるようですが…


 いやはや、なんだか嫌な予感がするのは、果たして気のせいでしょうか。

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