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「…職員室で、花沢先生が菓子パンをくれるって言ってきたらしいんだけど、それを森川先生が断ったら『じゃ、これ期限切れだから捨てちゃお』って、ほんとに捨てちゃったんだってさ」


「え〜、花沢先生ったら、やっぱり変です〜」


 きょうも2人で下校。最寄りの駅へと向かう道中、有田くんと史都が楽しげに話しています。


「…あ、そうそう、そうだ史都ちゃん。実は昨日、これを貰ったんだけど…」


 などと、歩きつつ有田くんが財布から取り出したのは、なにかのチケットです。


 して、その長方形の紙面には『ナカジマスーパーアイランドwithリヒテンシュタイン村』なる遊園地の名がプリントされています。


 で、やたらタックスヘイブンな『with』なのはともかく、


「ウチの近所に住んでるヨーゼフさんっていう、外国人の方が、ここに勤めているそうでね。で、その人に、この無料招待券を2枚貰ったんだけど…よかったら、今度一緒に行かない?」


 有田くんが史都を誘いました。


 そう、その機会に彼は、史都から告白の返事を貰うつもりなのです。


「わ〜、この遊園地は、確かユニバーサル赤道ギニア村と同じ系列の〜…一度、行ってみたいと思ってたんです〜」


 やたらピンポイントな村なのはさておき、どうやら乗り気な様子の史都です。


 が、やがて2人して電車に乗り…


「…じゃあ、また明日の朝ね」


 2駅手前で有田くんが下車するや、いきおい史都の心中に、ある複雑な思いが浮かび上がってきました。


 実のところ史都は、日に日に有田くんのことを、異性として・・・・・好きになっていく自分がいることに、すでに気づいています。


 イケメンにして成績優秀なのはさておいても、皆に優しくかつユーモアもあり、さらに何かと自分を気遣ってくれる彼を、嫌いになれるはずもありません。

 

 ただ、たとえ心は人間でも、あくまで身体は人形の自分と付き合って、果たして有田くんは幸せなのか… 


 そう考えると、このまま彼と行動を共にしていいのかどうか、とても迷ってしまうのです。


 もし、仮に有田くんと付き合うようになったとしても、本当にそれが彼にとって、また自分にとってもいいことなのでしょうか。


 隣の席が、ぽっかりと空いた車輌内。揺れに身を任せつつ史都は、しばし物思いに耽るのでした。

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