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 後日…


「…なんと〜、史都が男の子と歩いていた〜…」


 ここ楠家のリビングに、彼女の父である帝都ていとの声が響いたかと思えば、


 ひゅるるるるるる〜っ…ずががーんっ!(×2)


 その彼の身に、フリッツXエックス2発が命中。ソファに腰掛けたまま、帝都は右に大きく傾きました。


 が、


「しっかりしてくださいな〜、あなた〜」


 隣に座る妻、湖都ことの支えにより、どうにか撃沈を免れることができました。


「うむ〜、大丈夫だ〜」


 いやま、確かに。驚いているようでいて帝都は、娘と同じく無表情かつ一本調子です。


 かたや、ほぼ通常運転ながら、湖都もまた然り。


 さらに、これまた史都と同様、両者とも会話しているにも口は動かず。その声も側のラジカセを通して、当リビングにこだましています。


 そうなのです。娘が人の魂を宿した人形なら、両親もまた同じく。やはり史都よろしく、それぞれ双方の霊魂が、年齢相応都合よくな男女の等身大人形に憑依しているからなのです。


 実を言うと、この楠家の親子3人は、かつて揃って不慮の事故に遭遇。結果、この世に未練を残したまま亡くなってしまいました。


 で、その一家の彷徨える魂が、たまたま同じ場に棄てられていた3体の人形に憑依。こうして、再び現世で共に暮らすようになった。という訳なのです。


 ちなみに、この『うらめしや〜』みたいな家族揃っての一本調子も(ひとつのイメージとして)霊であるがゆえ、ということで。


「で〜、一体どこの誰かね〜、その男の子というのは〜」


「私も、ご近所の方に聞いただけなのでよく分かりませんが〜、なんでも同じ臨海高校の制服を着た、爽やかなイケメンだったそうです〜」

 

 そう、湖都の言う『イケメン』とは、間違いなくあの有田土岐雄くんのこと。まだ史都は、彼の告白に対して返事はしていませんが、最近よく一緒に登下校などするようになった為、その姿を目撃されたのでしょう。


「ふむ〜…まあ、史都が仲良くしているなら、決して悪い子ではないとは思うが〜」


「私もそう思いますわ〜。あの子のことですから〜」


 なるほど、そもそも真面目なせいか、史都は両親から大きな信頼を得ているようです。


「しかし、まだ彼氏と決まった訳ではないが、どうだろう湖都〜…その点について私からは聞きにくいし、ひとつ君の方から、さり気なく聞いてみてはくれまいか〜」


 いつもは落ち着いているのに、いまは別人の如し。湖都とは対象的に、そわそわと手足を動かす帝都であります。


 えてして、娘を持つ父親というのは、こういうものなのかも知れません。


「まあ、あまり自信はありませんが〜…」


 とは言ったものの、そこは帝都の思いを汲んでか、


「…分かりましたわ、あなた〜。あの子が学校から帰ってきたら、それとなく聞いてみます〜」


 湖都が小さく頷きました。

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