第4話 歩みを止めるな
あの後すぐに完成した技術を学会に報告したが、返事は最悪な物であった。
学会は一番金を出したところにだけこの技術を公開するつもりらしい。
そしてある程度戦争が激化し、防御魔法の有用性が証明された時を狙って、他の国に2倍の価格で技術を売りつけるつもりのようだ。
「あの男の言う通りにすれば良かったのか……?」
ここまで現状を打開する方法が見つかっていない。居なくなったセノについての問題もある。
学会は頼れず、何をしてくるか分からない危険なあの男もいる。
貧乏ゆすりがだんだん大きくなる。ブツブツと独り言を言っては、机に拳を叩きつける……
「自分でやれってコトだよな……」
とりあえず防御魔法の魔石について広めないと被害は大きくなってしまうだろう。
国家規模で情報を共有するなんて正気の沙汰ではない。しかし、この国の学会支部にはたったひとり、信頼できる人がいた。
「まずは王都の支部に連絡だ……学会支部には話の分かるアイツがいたはずだが……」
通信魔法のスクロールに無属性の魔石をかざす。連絡が付かなかったらどうするかを考えていたが、幸い支部への通信はすぐに繋がった。
「こちらゴード。魔石研究第二室のグラス・ストラウスに取り次ぎを頼みたい」
『失礼しますゴード様。先ほど、学会より『除名処分』が下されました。貴方様への応対は厳しく禁止されています。ご了承お願いします』
その受付の女性は事務的に告げると、通信を切ってしまった。
「クソっ!」
ゴードは支部を通じて国の上層部に掛け合う方法は採れないと悟った。
次はどうするべきか、部屋をグルグルと一人で歩き回り、思考をフル回転させる。
「騎士団支部……そこなら騎士団の本部に繋がる連絡装置があるはずだ!」
善は急げと、荷物をカバンに詰め込んですぐに隣町にある騎士団支部を目指すために支度を始めるが、そこであるものに気が付いた。
ゴードが投げた新聞……そこにでかでかと書いてある見出しには『騎士団支部占領!? 新たな技術か!?』とある。
「冒険者組合のやつらに占領……くそっ…………支部もダメか」
しかしゴードは諦めない。
「まだだ……町中探せば王都に連絡できる人もいるだろう。仮にいなかったとしても、商人にでもお願いすればすぐに情報も行きわたるはず……!」
「僕を頼ってくれても良いんだよ?」
突然声を掛けられた。そこには先ほど姿をくらました白い魔導士がいた。
「ほら。僕と手を組めば君の目的は果たされる。もちろんセノの事についても手助け……いや、解決してあげるよ」
ゴードにとって、防御魔法を各国に伝えるということはもちろん、セノの問題についての解決というのは非常に魅力的な提案だ。
「だが……全部お前が……! セノだってお前が……!」
「最初に言ったよ? 『全部君が悪い』ってね」
訳が分からないといった顔で白い魔導士の顔を見る。そして彼はその顔に満足したかのように笑顔を浮かべ、とうとうと語り始める。
「君が魔法に憧れなければ、君が魔石ついて研究しなければ、君が魔石の融合を研究しなければ、君が魔石研究学会に研究成果を伝えなければ……」
ふふっと静かに笑う。
「それに、学会は技術が漏洩したから他の国に技術を売ろうとしたんじゃない……」
そしてこちらを憐れむように、そして慈しむように言い放った。
「学会は今回の事を口実に、全部の責任を君と冒険者組合になすりつけて儲けようとしていたんだよ。酷い話だよね」
ゴードはまるで魂が抜けたかのように唖然とする。
今まで信じてきた学会……人の為になると信じて提出した研究成果が、戦争で莫大な利益を得るために利用されたと知り、絶望に苛まれる。
「僕と手を組む……君は加害者(かいはつしゃ)であり被害者、そして僕は利用された被害者だ。良い相性だと思わないかい? それに、誰かを傷つけるわけでも無く、みんなを救おうとしているんだ。素晴らしいでしょ?」
その屈託のない笑みとは対照的に、ゴードの顔は老人のようにしわくちゃとなっていた。
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