第3話 変わりゆく世界
技術を盗まれてから3日後。ゴードの手元には『騎士団支部占領! 新たな技術か!?』と大きな見出しで書かれている新聞が握られている。
内容は十数人の冒険者と見られる人々が、上級魔法である爆発魔法を乱射して騎士団支部を襲撃し、占領したというものだ。
記者は『魔法使いとは思えない風貌の人が爆発魔法を繰り出していた』という目撃者の証言から、新しい技術が開発されたのではないかと考察している。
「冒険者組合のヤツら……騎士団を潰すつもりか?」
「さぁね。組合は蛮族が多いし、新技術に浮かれて調子に乗っただけだと思うね」
ゴードは新聞を雑に放り出すと、机に向かって瞬時に防御魔法を使うことができる魔石の開発に取り掛かる。
「だが……今のところ魔石の技術が公になっている様子は見られないな。学会がまだ公開してないか、はたまた情報提供された国が秘密にしているか……」
「学会様のさじ加減だろうな。情報の提供の仕方で各国の動きも変わるだろうし。今のところ大きく取りざたされるようなことは起きていないって、前向きに捉えようじゃないか」
「……あーもう訳が分からない。技術がどれほど広まってるかも分からないし、あれに対抗する手段も思いつかない。手詰まりかコレ?」
セノは適当にゴードの愚痴を流すと、机に突っ伏すゴードに一つのアイデアを投げかける。
「なぁゴード……魔石に小型のスクロールを巻きつけるってのはどうだ? ほら、かざす手間も荷物がかさばる事も無くなるし……」
「一気に魔石の魔力をスクロールに注げるならそうしたいさ……投げるだけで爆発する魔石に対してスクロールに魔石をかざすなんて悠長な事はやってられない」
もう何も思いつかない。そんな顔で額を机に擦り付けたが、突如としてその動きが止まる。
「魔石からは少しずつしかスクロールに魔力を流せない……なが……せ…………」
ゴードはいきなり椅子を立ち上がり、興奮した様子で叫ぶ。
「魔力の放出量を引き出す方法を考えれば良いのか!」
その大声に体をビクッと反応させたセノだが、久々に研究者らしい……ゴードらしい様子を見て思わず笑顔が溢れる。
そして、セノは問いかける。
「そんなこと出来るのか?」
「できない!」
自信満々にできないと返答したが、ゴードの目には新たな技術を作ることができるという確信が浮かんでいる。
「だが魔石を混ぜる技術を使えば、防御魔法の即時展開は可能だ」
部屋の奥から金属製の装置を持ってくると、無属性魔力を持つ魔石を金属製装置に入れる。
「これは一体何なんだ?」
「簡単に言うと魔石を混ぜる装置だな。俺が開発してしまった技術だ。魔石が傷ついたときに発生する魔力の解放を防ぎながら魔石を砕くことができる」
「魔力の放出量に何の関係があるんだ?」
「魔石から魔力を引き出すときは、100ある魔力から1ずつ魔力を引き出すから時間がかかるんだ。それなら1ある魔力を100個用意して全部から魔力を引き出せば良い」
彼は装置から砂の様に粉々になった魔石を取り出して、ガラス瓶に詰め込み、防御魔法が刻み込まれたスクロールを巻きつけて早速魔法を使ってみることにした。
「成功してくれよ? 『展開』!」
砂のような魔石達が輝くと同時に、瞬時に防御魔法が発動する。3秒間ほど魔法が持続したところで魔法は正常に終了した。
「やった! 成功したぞ!」
嬉しそうにセノの方に呼びかけるが、そこにセノはおらず、一人の白い魔導士がいた。
「素晴らしい! 素晴らしいよ! こうにも早く技術を完成させるなんて!」
あの魔導士がセノのいた場所に座っていた。不気味な雰囲気を醸し出す彼は、好奇心旺盛な少年の様に話しかけてくる。
「君のその技術、一緒に広めないか?」
白い魔導士はどこまでも楽しそうに語り始める。
「君の魔石融合の技術は各国に広まり、戦争は激化するだろう……場合によっては、新たな技術を使って、まだ技術を十分に生かし切れていない国を攻め込む国だって出てくるだろう! それほど強大な技術だからね! そして民間にその技術が広まれば、内乱だって始まるに違いない……!」
白い魔導士は人差し指を彼の目の前に突き立てると、悪辣な表情でさらに続ける。
「そんな被害を抑えられるのはその技術だけだ! 魔法が使えずとも魔導士に対抗できる世界! 素晴らしいじゃないか! 君と俺は組むべきだ! 一緒に世界を変えるんだ!」
ゴードは目の前のローブの男に底知れぬ恐怖を感じた。彼の言っていることはいつか本当の事になるだろう。そして、彼の言葉に従って技術を広めることが良いとも直感的に考えられる。
だが、
「断る。この技術は学会に提出し、この状況への対策を仰ぐ」
「釣れないなぁ」
「お前が技術を奪っていなければ! お前が技術を組合の人間に提供しなければ! そもそもお前はなんなんだ! お前がこの状況を作ったんだろう! お前と協力なんてできるはずがないだろ!」
白い魔導士の態度に我慢がならなくなったゴードは、感情に任せて言葉をぶつける。
しかし、彼はそんな激情を受けて楽しそうに言う。
「俺が何なのか…… そんな風に俺を言ってくれるなんて嬉しいね。俺の名前は××××。ただの冒険者組合の組合長だよ」
名前の部分だけ聞き取れなかった。そして、そこについて深く考えると頭痛を覚える。
何故か理解を拒むような……
「今回は前みたいな無理やりはやめておくよ。でもきっと俺に協力したくなるはずさ」
パチンと指を鳴らすと彼はその場から突然消えた。もちろんそこには何の痕跡もなく。
しかし、たった一つ変化したことがあった。
「……セノ?」
白い魔導士がいなくなった途端、セノの事を思い出した。
「おい……どこだよ? 下手な冗談はやめてくれよ」
何度呼びかけても何も返事は来ない。
そして、数分の時間をかけて確信した。
『セノは本当に居なくなった』と。
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