誰かの日記


 ○月×日

 ずっと底辺の暮らしをしていた。

 なぜ、私がこんなことになっているのか。ずっと考えていた。

 私が何をした? なぜ、私が、こんな……。

 あの男がねたましい。

 私と同じような出自しゅつじの癖に……。



 ○月×日

 最悪だ。

 母が死んだ。殺されたんだ。

 次は私か?

 あの男は母と通じていた。

 邪魔じゃまになったのか?



 ○月×日

 昨日、■■に会った。

 私のこれからを予言してみせた。


 曰く、数日のうちに死ぬらしい。

 それを防ぐ方法も、教えてくれた。

 その方法とは(虫食いで読めず)すること。


 なんだ、簡単なことじゃないか。

 成り代わればいいんだ。

 あの男と、私。

 これで全てが上手くいく。



 ○月×日

 ■■の言う通りにしたら、驚くほどうまくいく人生になった。

 感謝しかない。

 飯にくいっぱぐれることも、女に困ることもない。

 家は隙間風も入ってこない、大きなものとなった。

 このまま我が血を継ぐものを作ろう。


 追記

 最近、なんだか甘い香りがするときがある。

 とても良い香りだ。

 もしかしたら加護かもしれない。

 心なしか、この香りがするとよいことが引き寄せられる気がする。


 ―――

 ――

 ―



 ○月×日

 困ったことになった。

 数十年、なんの音沙汰もなかったはずなのに。


 耳鳴りがする。音が聞こえるんだ。

 ああ、甘い香りも日に日に強くなっていく。


 植物には、香りで餌を呼び寄せるものもいるらしい。

 これも同じなのかもしれない。

 何を引き寄せている気がするのだ。


 その気配は、日ごとに大きくなる。

 誰かが、私を見ているのだ。


 これが代償か?

 血筋が増えるのを待っていたのか?



 ○月×日

 もう、我が命は長くないだろう。

 明日にでも消えそうだ。

 気が向いたら、すぐにでも……。


 だが、これをやめることはできない。


 ……出来ないんだ。

 やめれば、子や孫、そのすべてが○○〇だろう。


 だから、書き残そう。



 ――我が一族は○○〇の下、その位置にいるものに狙いを定めて成り代わることで財を為した。


 バレてはいけない。

 しゃべってはならない。


 あの者が私であることを。

 彼の○○を私の息子とす〇〇えたのを。


 お前は私で、私は彼。

 もはや血のつながりなど分からぬ。


 知った者は見えない場所に○○た。


 私たちはこれからも怯えることになるだろう。


 奪ったものを取り返される恐怖に。

 ○○た者達が這い上がってくる悍ましさに。

 いつか○○下に晒される罪に……。



 それでも””は続けなければならない。

 我らが○○〇ることになるのだから――。



 ああ、あの時。

 どうして、あの誘いに乗ってしまったのか。


 そればかりが悔やまれる。


 いいか。よく覚えておけ。


 甘い香りには近づくな――


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