第6話 いっぱいキスをした

「じゃあ電気消すよー」


「うん」


 電気を消して布団に潜り込むと、すぐに乃々花がしがみついてくる。体温が高いのかとても温かく、足まで絡められるとまるで恋人にでもなったかのように錯覚してしまう。私、今まで恋人とか出来たことないけど。

 私からも軽く乃々花の背中に腕を回してみた。


 私の胸元に顔を擦って「むふー」と満足気な声を漏らしたり、私をもっともっとと求めるように絡めた足を擦り合わせられると、あの、私の理性が持たないんですが。


 デレデレになったのは非常に嬉しんだけど、大丈夫かな私。同居初日から妹に手を出して嫌われることは避けたい。いや、寧ろこれ誘われてるっぽいから手を出さない方が駄目か?

 いやいや、どっちか分からないならリスクは背負うな姫。私たちはもう家族なんだ。これから一緒に暮らしていくんだから、何事も慎重にすべし!


「お姉ちゃん…寝ちゃった?」


「ううん。まだだけど、どうしたの?」


「ううん。その…大好き。お休みなさい」


「私も大好きだよ。お休み、乃々花」


 今日はいい夢が見られそうだ。



――――――――



 何やら唇に柔らかい感触が当たって、目が覚めた。


 瞼を上げるとすぐ目の前に乃々花の顔があり、乃々花は焦った様子で私から離れてあせあせ目を泳がせる。


「あっ、あの、その、これは、違くてっ!」


「んぅ~?おはよう、乃々花。どうしたの?」


 私はまだ寝惚けた頭で何で乃々花が慌てているのか考えてみる。

 私の顔に悪戯してたのかな?落書きくらいだったら全然許せるし、寧ろ興奮するんだけど、手には何も持ってないし違うっぽい。

 それに、乃々花は私の顔の一点を集中的に見ていた。


 どこ?顔の下らへん、鼻よりも下の…唇?


 私が徐に唇に触れると、乃々花はあからさまに顔を真っ赤にして目を逸らした。

 そういえばさっき、唇に柔らかくて温かい感触が、


「もしかして…キス、してた?」


 「キス」と言う単語を聞いて乃々花は分かりやすくビクッと体を震わせた。

 そしておずおずと首を縦に振った。


「ご、ごめんなさい…お姉ちゃんの眠ってる顔見てたら…その、したくなっちゃって」


「ううん、いいんだよ。キスしたいんだったらいつでもどこでも、何回だって私は大歓迎だよ」


「ほ、ホント!?」


 と言うか、乃々花だったらどこまでも許せる自信がある。


「じゃ、じゃあ、おはようのちゅー…いい?」


「うん、いいよー。おいでー」


 まだちょっと頭はポヤポヤしているが、寧ろ頭が冴えてたら必要以上に興奮してしまうだろうから丁度いい。と言うか、寝起きだけど口臭とか大丈夫かな?一応ブレスケアはそれなりにやってるつもりだけど。


 なんて考えていたら広げた両手の中にすっぽり乃々花が収まり、私に正面から寄りかかる形になった。春の朝はまだ冷えるのだが、今日に限ってはポカポカと朝の日差しよりも温かくて幸せなものがこの腕の中にある。


 乃々花は私の首元に手を回して、少しだけ腰を浮かして私の唇に口付けた。唇の表面がふわり溶けるように合わさり、気持ちいい電気信号が朝の寝惚けた頭から流れ出す。


 少しだけ離れて、またキスをする。今度はさっきよりももう少し深く。舌までは流石に入れて来ないが唇同士がしっかりと密着し、二回、三回と自分の唇の形を私に覚えさせるかのように何度もキスを落としてくる。


 やがて満足したのか、それとも息苦しくなってしまったのか、乃々花はゆっくりと唇を離し、私の顔を見てふにゃり笑顔を浮かべた。その表情が可愛すぎて、今度は私からも軽いキスを返すと、乃々花はもっと嬉しそうな表情を浮かべる。マジで寝起きの頭で良かったと思う。でなければ多分、性的に襲ってた。


「キス…気持ちいい。お姉ちゃんは…気持ち良かった?」


「うん。乃々花の唇、とっても美味しかったよ」


 舌なめずりすると、乃々花は顔を真っ赤に染めて「も、もう!」と恥ずかしそうに顔を背けてしまう。流石にちょっとからかい過ぎたか。


「そろそろ起きよっか。今何時?」


「今は多分8時くらい…そうだ!お母さんにご飯出来たからお姉ちゃん起こしてきてって言われたん…だった」


 当初の目的を忘れて姫の唇に吸い込まれキスをしてしまったことを思い出したのか、乃々花は恥ずかしそうに俯いてしまった。結果的に姫を起こすことには成功したから結果オーライではある。


「もうそんな時間なんだ。それじゃあ一緒に行こっか」


「うん!手、繋いでもいい?」


「いいよー」


 私たちは朝っぱらから仲睦まじく食卓に向かった。

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