第5話 妹の匂いを嗅ぎました
寝る前、ベッドをゴロゴロしながらナンプレしていたら、ふと扉前に気配を感じた。これが第六感ってやつ?
「はいはーい」
と、誰もいないだろうと思いながら謎に返事をしつつ扉を開けると、枕を抱えて涙目になっている乃々花ちゃんがそこにはいた。
「え!?ちょっ、どうしたの!?」
私が慌てて部屋に引き入れると、乃々花ちゃんはつぶらな瞳で私のことを見詰めてきた。やめて、夜にそんな顔されたらベッドに押し倒したくなっちゃう。
「…トイレ…行けなくて」
「トイレ?場所分からないとか?それともトイレットペーパーなくなっちゃった?」
乃々花ちゃんは首をぶんぶん否定する。
「その…さっき見たホラーが怖くて、トイレ…行けなくて」
乃々花ちゃんはおしっこを我慢しているのかもじもじと太腿を擦り合わせながら、私の袖を引っ張る。
「…いっしょにきて?」
「行きます」
乃々花ちゃんとお手々を繋いでおトイレデート。
親たちも寝室に向かったようで、廊下は暗く、電気を点けながら下まで降りる。その間、乃々花ちゃんはぴったり私にくっついて来てくれて、なんなら私の腕ごと抱き締めて、ふんわり小ぶりなお胸が私の二の腕辺りでふにょりと潰れる。私、ムラムラします。
乃々花ちゃんのおしっこが漏れる前に私の理性がなくならないか心配になりながらトイレに辿り着く。乃々花ちゃんは何度も「絶対ここにいてね!」と念押ししてから、中に駆けこんで行った。
私はトイレの扉に耳を付け、乃々花ちゃんの放尿音を楽しみつつ待機する。
因みに乃々花ちゃんの抱いてた枕は今は私の腕の中。枕に顔を埋めていっぱいに乃々花ちゃんの残り香を吸い込む。
なんてことをしていると、トイレを流す音と共に恥ずかしそうな顔をした乃々花ちゃんが扉を開けて出てきた。
私が何となく両手を広げて待ってみるが、乃々花ちゃんはぷいっと顔を背け、
「枕…返して」
「返します」
少し惜しみつつも枕を手渡すと、乃々花ちゃんも枕に顔を埋め匂いを嗅いでから、顔を上げて私の方をジト目で見てきた。
「…もしかして、匂い嗅いだ?」
「ごめんなさい嗅ぎました」
全力で頭を下げる。
やっぱり嘘は良くないからね。放尿音を聞いていたのも聞かれたら答えますよ。聞かれないと答えませんけどね。ええ。
てっきり怒られるかと思っていたが、乃々花ちゃんは、
「もう…」
とだけ言って、また枕に顔を埋めてしまう。
しばらくしてから私の腕を抱き締め、
「戻ろ?」
と上目遣いで言ってくる。
何だこれ。私、今日幸せ過ぎて死ぬかもしれない。
帰りもいっぱい乃々花ちゃんを満喫しながら私の部屋の前に到着。
「それじゃあ乃々花ちゃん、おやす」
「ねぇ」
「はい」
「…一人で寝るの怖いから、いっしょに寝たい」
うぎょおおぉぉぉーー!?
お母様。さっきは米神ぐりぐりしてしまってごめんなさい。DVで訴えるとか言ってしまって誠に申し訳ございませんでした。
あなたがホラー大好きだったお陰で私は今、天にも昇るほど幸せです。
今度ポタトビッグサイズ買って来てあげよう。絶対に。
私があまりの幸せに固まっていると、乃々花ちゃんはおずおずと枕を抱き締め、
「…駄目…かな。そう、だよね、私、今日ずっと我儘で生意気なことばっか言って…嫌いになっちゃったよね…」
「そんなことない!!大好きだよ!!」
そう叫び、驚嘆顔を浮かべる乃々花ちゃんの華奢な体を抱き締めた。温かくて自分と同じシャンプーを使ってるはずなのに、自分よりも数倍良い匂いがして堪らなく興奮する。
少し顔を離して目を見合わせると、乃々花ちゃんは恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに破顔し、
「…大好き…そっか…えへへ」
と小さく呟いた。
なんなんだこの生物。あまりにも可愛すぎる。
「あのさ…その、お姉ちゃんって…呼んでもいい?」
「うん!何とでも呼んでいいよ!」
「だからその…私のことは、乃々花って呼んで?さっき、お皿割っちゃった時そう呼んでくれたでしょ?あれ…すごく嬉しかったから」
そういえば思わず呼んだような呼んでないような、あまり記憶にないけど嬉しかったのなら、望まれるのなら是非呼び捨ていたしましょう。
「いいよ。乃々花」
「乃々花…えへへ」
乃々花と呼ばれてふにゃり柔らかい笑みを浮かべる。私も多分、今気持ち悪いくらい笑顔を浮かべていると思う。でもしょうがないよね?本当に可愛いんだもん私の妹。
「よし。それじゃあ一緒のベッドで寝よっか」
「うん。それじゃあその…おじゃまします」
乃々花はとてとて私の部屋に入り、ベッドの上に転がっているナンプレに気付く。
「これ何?」
「ナンプレだよ。数字を使ったロジックパズルって言うの?とにかく、暇な時にそれを解いて懸賞に出したりしてるんだよね」
「懸賞!お姉ちゃん当たったことあるの!?」
「ないです…」
もう何百と出しているはずなのに悉く外れている。別に欲しい商品があるからやってる訳ではないが、ここまで来たら一回くらい当たってもいいのになーとは思う。
「そうなんだ。私もやっていい?」
「うん、いいよー。一緒にやろっか!」
そうして私と乃々花は日付を跨ぐまでナンプレに情熱を注いだ。
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