第3話 何よりも優先すべきは我が妹

「…冷たいけど美味しい」


「ホント?なら良かった」


 現在、我々は公園のベンチに腰掛け、昔懐かしプピコアイスを分け分けしたものをチューチュー食べていた。ベンチは横長で、私と乃々花の間には人二人分くらい間隔があることは言うまでもない。


 今は春休み中でまだほんのり肌寒い。ぶっちゃけ家で食べたら良かったと少し後悔してるけど、まあこれはこれで悪くない。寒いけど。

 ほら、乃々花ちゃんもちょっぴり震えてるし。


「…でも、ちょっと寒い」


「そうだよねー」


 まだまだ距離はあるけど、乃々花ちゃんが最初よりも話してくれる。それだけで私はとっても嬉しい。


 食べ終わってゴミをくず籠に捨て、さあ帰ろうと乃々花ちゃんに手を差し出してみたが、見事にガンスルーされる。うん、知ってた。試してみただけ。


「帰るんでしょ?」


「うん。でもあんなことあった後だし、不安だから近く歩いてね」


「…分かった」


 渋々ながら、それでもやっぱりさっきのが余程怖かったのか乃々花ちゃんは隣を歩いてくれる。さっきのカルガモみたいな感じも可愛かったが、今度はちゃんと姉妹って感じでいいな。乃々花ちゃんの良い匂いがほんのり漂ってきてるような、きてないような。


「わっ!?」


 唐突に何もない所で躓く乃々花。


「危ないっ!」


 物凄い速さで反応し、乃々花の体を抱き止める姫。


「大丈夫!?」


 姫は乃々花の柔らかい体に抱き着いてニヤケる顔をどうにか引き締めつつ尋ねる。


「う、うん…ありがと」


 姫にも聞こえない声で感謝の言葉を述べる乃々花。姫は自分の表情を崩さないようにするのに必死で、自分を抱き締めている姫の手を真っ赤な顔で見ている乃々花に気付かなかった。




「姫ー!ご飯できたよー!!」


 私たちの帰宅からしばらくして、夕食が出来たとお母さんから呼び掛けがあった。その間、乃々花ちゃんは部屋の整理をしたり忙しそうにしていたため、私は自分の部屋でクロスワードしていた。本当に暇な時、懸賞付きの謎解きをするのが最近のマイブームだ。寂しいって言うな。


 家族になった四人で食卓を囲む。因みに、親たちにより強制的に私と乃々花ちゃんは隣同士にさせられた。私は嬉しいんだけど、乃々花ちゃんは相変わらずそっぽを向いて不満たっぷりと言ったご様子。


 「いただきます」と合掌し、食事に箸を付ける。

 私が花月さんとお母さんの会話にちょくちょく入りつつ、たまに乃々花ちゃんに話し掛けてスルーされたりしていると、先に食べ終えた乃々花ちゃんが「ごちそうさま」と空になった食器を持ち上げた。


「乃々花、もういいのか?」


「お菓子食べたし、そんなにお腹空いてない」


「お前なぁ」


 乃々花は往復したくないのか食器を重ね重ねて、ぷるぷる震えながら流しに運んでいく。皆、その様子をハラハラした表情で見ている。


「乃々花、そんなに一気に持って大丈夫か?」


「乃々花ちゃん、私手伝うよ」


「うるさい!大丈夫だから黙って!」


 乃々花はもう少しで目的地と言う所で、また何もない所で躓き、今度は倒れるまでには至らなかったが積み上げていた皿は手の上から滑り落ち、


 ガッシャーン


 と爆音を立てて床に割れた。


「乃々花!!」


 何が起こったのか理解できず呆然とする乃々花の体を、姫は持ち上げた。

 姫によるお姫様抱っこ。


「わっ!?ちょっと!?」


 自分が恥ずかしい体勢になっていることに気付いた乃々花が顔を赤くしてじたばたするが、姫はそんな乃々花の顔を覗き込んで、


「乃々花っ!大丈夫!?怪我してない!?」


 そう言われた乃々花は、自分が周りの言う事も聞かずに意地を張った挙句、皿を大量に割ってしまったことに気付き、申し訳なさそうに表情を暗くした。


「…ごめんなさい」


「そんなのいいから、破片踏んでない!?足、触るね?」


 そう言って姫は乃々花の足を撫でると、乃々花は「んっ」と声を漏らした。

 何とも無さそうなことを確認したい姫はホッと胸を撫で下ろし、乃々花を現場から少し離れた地面に下ろした。


「良かったー。乃々花ちゃんが怪我しなくて…」


 自分の言う事を聞かなかったことよりも、皿を落として割ってしまったことよりも、何よりもまず自分の身を案じてくれた姫に、乃々花は勝手にニヤケる自分の口許を手で隠した。


 その後床掃除が行われ、乃々花ちゃんは花月さんに怒られていた。

 私はお母さんに軽く頭を撫でられた。


「カッコよかったぞ」

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