料理人見習いの初恋

ワシュウ

第1話 料理長の若者

僕はケビン・コーリン14歳だ

学園都市ミネルヴァのレストラン・フォレストガーデンの見習い料理人だった

ついさっき大失態をしてしまいクビにされて店を飛び出してきた


僕の母親は男爵家の三女で貴族のお嬢様だった

コーリンは母の姓だ。

父はこのミネルヴァに店を持つ商人で、僕の母の他に妻がいて腹違いの兄と姉がいる。

彼らは本宅で育っていて、別邸で暮らしていた僕と面識は無かった


貴族の娘だった母は市井での暮らしに慣れなくて、たまに訪ねてくる父にあれこれ言って、困らせてばかりだった。

母と一緒に男爵家から来たメイドが僕の乳母(ナニー)代わりだった


2年前に母が小さな風邪を拗らせて帰らぬ人に…

そして、僕は父のいる本邸に引き取られた。

乳母だったメイドは解雇されて離れてしまった。

住んでた別宅の屋敷は売り払われて、母との思い出は小さな鞄1つだけになってしまった。

父は僕に悲しむ余裕も与えてくれなかった


そして儲かってると思ってた商会は火の車だった…

今まで会ったこともない兄と姉が僕を罵った


兄「お前の贅沢な暮らしは俺たちが働いて稼いだ金だ!」


姉「あんたの母親がわがままだから、うちのお母さんが苦労してたのよ!この商会を切り盛りして最後まで贅沢などせず働いて死んだのよ!」


「ごめんなさい、何も知りませんでした」

僕は泣きながら謝った。


僕は商会の屋根裏に部屋を与えられ、夏場は蒸し暑い場所で過ごすことになった。冬場は凍えて死ぬんじゃないかな…。


兄と姉が怒っていた理由が分かった。

父が新しい妻を迎えた、僕より1つ下に妹がいたんだ。

父の新しい妻と娘の2人とも、綺麗な貴族のような服に身を包んでいた。


姉「何てこと、お父さんはあいつらに散財していたのね!!」


兄「あんなに怒って悪かったな…。

あの親父はお前の所でもなく、愛人の所にいたんだなら、本妻のお前の母親が死んで、俺らの母親も死んだからようやく愛人を迎えたんだ。

お前も母親が死んで寂しいのに、ケビンごめんな」


意外にも兄が優しくなった。


しばらくして、姉は金持ちの貴族のジジイの妾にされてしまった。

出発の日、姉は泣いて嫌がっていたけど、父が頬を叩いて黙らせると馬車に詰め込んだ。

姉の部屋に妹を住まわせるために家から追い出したんだ


妹は僕らの事を使用人と思っていた、いつも偉そうに命令してくる


兄が「妹のくせに生意気だ」と言ったら、父親が怒って兄を殴っていた。

それなら、もうあの子は僕の妹じゃないかもしれない


僕は兄が部屋に置いてくれたから屋根裏部屋から出ることができた。

商会の跡継ぎは兄だったけど、父が夜中に新しい妻と娘に貴族の末子を婿にとって跡継ぎにすると話をしていた。


兄と僕はその話を聞いてしまった。

兄は悔しそうな顔をしていて、部屋に戻った。

そしてこの家の事を教えてくれた

この商会はもともと兄の亡くなった母親の実家の店だった事、従兄弟だった父が商才を認められて後釜に入った事

父は貴族の伝手が欲しくて僕の母を迎えて本妻にして本邸に住んでた。


「僕は別邸だと思ってたのに」


兄「あのな…ここより広くて大きくて綺麗なのに別邸な訳がないだろ、本邸では何不自由なく暮らしてたんだろ?」


言われて気がついた。

商会の上の階は、そんなに広い部屋じゃなかった

外から見たら大きくて立派だけど、中は倉庫のようにごちゃごちゃ物で溢れていた。


兄は商会(ここ)を出て独立すると言っていた。

ここにいたら、父な奴隷のように使い潰されるだけで跡取りにもなれない


それから2年がたった、兄が独立する時に僕の仕事先を探してくれた

それがレストラン・フォレストガーデンだ


食べるのに困らないように食べ物屋で働けるようにと

この2年ほど、僕にご飯の作り方やナイフの使い方や食材の下処理の仕方など、簡単な事を暇を見ては教えてくれた。


兄「お前は貴族の娘を母に持つ商人の息子だ、それを武器にしろ!

覚えてるだろ?貴族の母が食べていた料理を、飲んでいたお茶を、使っていたカトラリーとマナーを思い出せ!それは働く時に役に立つ。

俺等にはない特技だ、お前の食べ方は綺麗だ。母親に似たんだろう…親父の商会はもうあてにするな!

あの浪費妻と娘を捨てない限り親父は破滅する

短い間だったが俺に弟がいた事を忘れない、元気で暮らせよ。じゃあな」


兄さんは僕の頭を撫でた。


「兄さん、ありがとうございました

この御恩は忘れません、お元気でグズッ」


その後、兄から1度だけ手紙が来た。

嫁いだ姉が娘を産んでいたらしい。ジジイに嫁いだと思ってたのに、その息子と結婚していたと。

兄は元気に王都の街で小さな商店を営んでると書いてあった。

2人は上手くやってるのに、僕は怒られてばかりだった。



今、僕は橋の上に立ち、流れる川を眺める

水に溶けて消えれたら母に会えるかな?

父の商会はまだあるけど、頼りたくない。

あそこには僕の居場所がない、僕はこれからどうしたらいいんだろう


下を向いてると涙が川に吸い込まれた

僕の涙が数滴落ちた所で、川は音もなく波紋が広がる訳でもない。

無力でちっぽけな涙は僕のようだ



「死ぬにはまだ早いですわよ?」


女の子に声をかけられたようだ

バッと振り向くとピンクのリボンをした明るい銀髪の貴族の5、6歳くらいの女の子が執事に抱っこされていた。


「あの?なんの御用ですか?」


「これは申し遅れました、こちらはマリーウェザー・コルチーノ伯爵令嬢でございます

先程、フォレストガーデンで食事をしていました」


執事が挨拶をする


伯爵令嬢だって?

訳がわからない


「貴方が店から飛び出すのが見えたのよ、もしかして氷を探していますの?

そんなの雪山にでも行かないと見つかりませんわ」


「はぁ、あの、一体?」


「ふふん世界発!製氷機のモニターになって下さらない?貴方のお店に必要よね?」


「は?製氷機?って何、ですか?」


「お嬢様、いきなり言ってもわかりませんよ。

失礼、店の氷が駄目になってますね?

お嬢様が氷を提供するとおおせです。

店主(マスター)に話をしたいので渡りをつけて下さい。

今晩のディナーで氷がいりますよね?早いほうがいいと思いましたが…こちらとしては来週でも来月でもかまいませんが?」


「え、あの、えっと…??」


「馬車で後ほどお届けに参ります。

氷を作る機械です、氷です!あなたが地下室の扉を開けっ放しにして駄目にしてますよね?

先程レストランで怒鳴られてたのは貴方ですよね?

話を聞いてますか?理解が追い付いてないようなので一筆書いておきましょう」


「ならトーマスの名前を書いて!

メンテナンスはそっちにお願いしないと、何かあるたびにわたくしが呼ばれても困りますわ!」


「かしこまりました、無断でエジソン殿の名を書くのですね」


「トーマスはそんなみみっちいことを気にしないわよホホホ」


訳が分からないけど、貴族に逆らってはいけない

そう兄や姉は教えられてきた。

僕もそれに従う事にする


フォレストガーデンは昼を過ぎて暇な時間だった。いつもならスタッフの昼休憩の時間だ

お腹が空いたな…


トボトボ歩いてい店に戻る、給仕のリサが僕を見つけて駆け寄ってきた。

「ケビンどこに行ってたの?心配したのよ…それは辞表?やめちゃうの?嫌よ!せっかく友達になれたと思ったのに!

仕事や料理長は厳しいけど、ここの料理は美味しくて好きよ。もう少し頑張りましょう!」


「あの、僕はクビにされたんだけど?

まだ僕は辞めたことになってなかったんだ…(ホッ)

これは貴族の、さっき来てたお客の明るい銀髪の女の子…ご令嬢の執事が書いた手紙だよ、オーナーは今日は来る?」


「え、大きなピンクのリボンのお客様?なんの手紙よ?まさかクレーム?どうしましょう!私があのテーブルの給仕係だったのよ!」


「クレームじゃない、氷をどうにかしてくれる手紙だって言ってた」


「直接オーナーに会いに行きましょう!表通りの店よ!走って!休憩時間が終わってしまうわ!」


リサが走った、なんて早いんだ追いつけない

リサが遅いと叫んでから僕の手を掴んで引っ張って走った、僕まで早く走れるようになったみたいだ。

こんなにドキドキするのは早く走れるからかな


ミネルヴァの表通りの大きいレストラン

ここがオーナーの本店なのか!すごい立派な店だ。

「なんでリサはここを知ってるの?」


「オーナーが1度だけ連れてってくれたのよ、ケビンは来たことないの?」


ないよ!


リサが入口の店員に声をかけると、すぐにオーナーが出て来た。

オーナーはフォレストガーデンで何かあったのか心配して聞いてきたけど、僕は手紙を渡した。

オーナーは読みながら僕に経緯を聞いて、震えだした


オーナー「そんな、まさか!信じられない!これが本当なら本店(こっち)に欲しいくらいだ!

まさかそんな事…この手紙は誰からもらったんだ?」


「あ、えっと、食べに来てた令嬢です

マ、マリーウェザー何とかって明るい銀髪の伯爵令嬢です」


オーナー「マリーウェザー・コルチーノ伯爵令嬢か?」


リサ「ご存知ですか?有名人なの?」


オーナー「今日、グンター(※親戚)の店で便箋を大量買いした幼い白い銀髪の令嬢がいたのだ…。

食器店でも大量に買い付けて、木工芸品でも大金を落として行ったと聞いた。噂になってる

防具屋で学生同士の喧嘩を収めて、そこでも買い物したそうだ」


リサ「お金持ちの伯爵令嬢だったのですね?

綺麗な娘でしたもの、食べ方も上品で落ち着いてたわ!あんな小さいのに大人しくって!

そうだ、ガレットの絵を置いて行きました!

ダビルド公爵領のガレットはうちと違ってそば粉だって話してるのを聞きましたコレです」


オーナー「何で君が持ってるの?忘れ物?」


リサ「落書きだから捨ててって言われたけど、もったいなくて」


「絵がうまい!美味しそうなガレットだ

カトラリーで食べやすそうだし、量も令嬢にはちょうどいいな…凄い!」


リサ「卵に、ハムや野菜があって彩り豊かですって」


オーナー「これ作ろう、女性には売れるよ

年取ると野菜が食べたくなるし年寄りにも売れる!」


「あの、店に製氷機を運んでくれるって…

その、僕が地下倉庫の扉を開けっぱにしてしまって氷が駄目になってしまいました…すみません!

ちゃんと閉めたつもりでした、申し訳ありませんでした!」


オーナー「え?」


リサ「その伯爵令嬢がケビンが怒られてる所を見てたのよ…。

そのあと研究所の白衣を来たスタッフと何処かに行って……、まさかそのスタッフが氷を作ったってことですか?

ケビンが怒られてる所を見てあの伯爵令嬢が製氷機を持って来てくれたのよ!凄いわ!

きっとあの令嬢の親が研究者のパトロンだったのよ」


「そんな訳が無いよ、知らないお嬢様が僕のために何でそんな事するんだよ」


オーナー「地下倉庫の扉はガタが来てたのだ、私がもっと早く修理してれば氷は溶けなかったのだ……。

ミネルヴァではよくある事だが、研究者が商人や店に試作品を持ち込むのだ。

けれど縁もゆかりも無いのに、そのお嬢様は君を選んだんだよ。コルチーノのお抱え商会に卸しても良かったのに!

氷が溶けて君が怒られていたおかげで製氷機がウチの店に来る。凄い!運命だ!さぁ店に向うぞ!」


リサ「あぁっ!今の!あの馬車!ピンクのリボンのお嬢様が乗ってるわ!待ってー!待ってぇ先に行かないでぇ!!」


リサが通り過ぎた馬車をさっきより早い足で追いかけて走った。

馬車が止まって先程の執事が出て来た。


僕もオーナーと追いかけたけどオーナーの息切れの方が酷い。

「ゼーッゼーッハァー、もう若くないから無理だ走らせないでくれよ」


馬車にオーナーだけ乗せてもらい先に店に向かった。

僕とリサはゆっくり歩いて行く


リサ「なんだか面白い事になったわね!ワクワクするわ」


「リサはどうしてそんなに楽しそうなの?」


リサ「ケビンが辞めずに済んでよかったわ!」


顔が赤くなったリサが可愛くて、もう少し頑張ってみようと思った。


だんだん早くなるリサの足取りに付き合って早く店に戻った。

店ではオーナーと研究所のスタッフ数人と執事が話し合いをしていて、あのお嬢様はテラスで静かにお茶を飲んでいた。


テーブルの水差しのピッチャーは氷が浮いていた!


「あら、おかえりなさい。

フフフッ貴女は足が早いのね、うちのアンナみたいよ。わたくしの侍女なの」


リサ「氷が浮いてるわ!製氷機はうまくいったの!?じゃなくて、うまくいきましたのね」


「あぁ、これは持参した氷なのよホホホ

そうだわメロンを切って下さらない?カレッジのクラブで育てた隣国の果実なの。

もうすぐ、お兄様たちも戻って来るわ」


リサ「お嬢様はカレッジの学生だったの?!

あ、学生でしたのね?まだこんなに小さいのに、優秀なのね。ではあの男の子達は学友でしたの」


「ええ、みなさん私のお友達よ。中に兄も1人いましたけど」


お嬢様の馬丁の男が見たこともない丸い実を両手にもってきた

「お嬢様、メロンです…冷えてませんけど」


お嬢様が木の棒でメロンと呼ばれる実を撫でたら空気が変わり冷気が出たように見えた

何をしたんだ??


令嬢「みんな貴族のボンボンだから歩くのも遅いわねぇ。

メロンの切り方はデュランに聞いてちょうだい。

わたくしが厨房に入ると皆さんの迷惑になるし、怒られるでしょ?」


デュランと呼ばれた馬丁と厨房に入る

地下倉庫の中にみんな降りていて、ちらりと白い箱が見えた


執事が丁寧に説明していた

「凍りすぎた場合はこの部分を1枚ずつ抜いて下さい。逆に弱ければ1枚ずつ増やして下さい。

ここのこのケースに水を入れておけば一晩で氷ってるはずです

中は冷えますので、腐りやすいものを一次保存するのに良いです

たまに掃除して清潔に保って下さい

カビは生えにくいだけで生えないわけではないです」


白衣の研究者が

「カビは低温だと生えにくいし、肉も腐りにくいが腐らないわけではない

ああ、この葉を入れとくとカビがさらに抑えられる、この葉の実験もついでにしたいな」


「それは、研究室のれいぞうこで試してください」



デュランがメロンの切り方を見せてくれた。

「このように半分に切った後に6等分か8等分に切ります。メロンの大きさによって変えて下さい。

今回は8等分にします。

この部分が種ですから取り除きます

さらにこう切って、こう皮の部分から剥がします

こうして一口サイズにしたほうが食べやすいですが このままスプーンを添えて出しても良いです

皮付きで出しても良いですし、皮を捨てて別の皿に盛ってもいいです。

今は、このままお嬢様に持っていきます」


リサ「わたくしがお持ちしますわ!瑞々しい甘い香りね!」


デュラン「一口どうぞ?」


リサ「え?いいんですか?」


デュラン「お嬢様はそのつもりでしょう、そなたも味見されよ」


「えっ僕もですか?…いいのかな?」


リサ「あんまぁーい!おいしー!何これ?こんな果物初めてよ!隣国の果物ね?

ネクターよりも瑞々しいし、オレンジより甘くてフラグムよりも甘いわ!」


「リサもう食べたの?じゃあ僕も……甘い!凄く美味しいし。あれ、冷えてる??」


デュラン「冷蔵庫で冷やしたものを出したほうが客受けが良いですぞ」


リサ「はっ、お嬢様に持っていきます!」


リサが給仕に向かって

僕はデュランに向き直りお礼をする


「ありがとうございました。

お嬢様のおかげでクビにならずにすみました」


デュラン「どういたしまして、これから励みたまえ若者よ」


「はい!…あなたも若者ですよね?」(※デュラン15歳)



それから、さっきお嬢様とランチしてた貴族の子息達が店に戻ってきた

急いでメロンを切ってリサが給仕をする

もう少ししたら夜からの給仕係が来るからそれまで僕も手伝う。

デュランさんに言われたように盛り付け方を工夫して出す


リサ「オーナー!お嬢様が肉を提供するからテラスでバーベキューをしてもいいかって!!どうしたらいいですか?」


執事が謝りだして、白衣の研究者が笑いだした


執事「お嬢様がわがままを申しましてすみません」


研究者「クククッまさか、ここで"ホルモン焼き"をするつもりなのか?芳ばしい匂いが周辺まで飛ぶぞ」


オーナー「ホルモン焼き?」


デュラン「卓上のコンロで網焼きをします

お嬢様はマイコンロを作ってましたから、それも試してみたいのでしょう」


オーナー「卓上?マイコンロ?見てみたいのだがよろしいか?」


オーナーが出て行ったからリサも僕もついていく

執事が馬車から荷物を出して来て、見たこともないコンロが出てきた


デュラン「こちらに生肉を皿に盛って提供しておき、客が自分たちで焼きます」


オーナー「信じられない!客が自分で料理するのか?」


デュラン「焼くだけですから、薄く切っておくとすぐに火が通ります、幼女な客でも楽しく焼けますぞ」


執事「まぁ、実際は私達が焼きます。貴族令嬢からしたら珍しくて楽しいのでしょう」


令嬢「ふふふっお肉が焼ける様子は見てるだけで食欲をそそりますもの。

お店は焼いた肉をつけるタレや飲み物やサラダやあとは、デザートや一品料理などを提供すればよろしくてよ」


オーナー「このコンロは誰が作ったのだ?

コンロをテーブルに乗せられるほど小さくしたのか…有りそうでなかった物だ!!これならテラス席で提供が出来る!」


「わたくしの領地の職人に作らせましたのよ!

デザインはわたくしが作りましたのホホホ」


オーナー「あ、ガレットの絵もお嬢様ですね?

素晴らしい!あの絵を私に下さい!

ガレットをそば粉で作ります!許しを下さい!」


「小麦粉を一切使わないガレットを作って下さるのね?助かるわ。私の従者のサイモンは小麦粉が食べられないのよお願いしますわ」


オーナー「それと、このコンロを量産する予定は御座いませんか?伯爵家のお抱えの商会と契約してますか?」


「え、コンロなんて誰でも作れますよね??」


オーナー「"卓上コンロ"はありそうで無かった、誰も考えていないアイデアです!特許を取って契約しましょう!」


「面白いわね、いいわよ貴方の名前で特許を取って契約しましょう!わたくしは目立ちたくありませんの」


執事「お抱え商会ともめませんか?」


「…揉めるかしら?

あちらはチョコレート工場と、これからコーヒーで忙しくなるのに?

じゃあ、おにーさまの名前で特許を取ってしまいましょう」


「え、マリー!僕には無理だよ!」


「おにーさまもコンロのもう一つの形を知ってますよね?」


「七厘のこと?」


「あちらの方が重たくて安定感があるから網焼きには向いてますのよ」


オーナー「"シチリン"とはどんな物ですか!」


オーナーがグイグイ話し込んでいる


薄暗くなってきて、店の中に移動しようとしたら、お嬢様が明るいランプを沢山出して来てテラス席が明るくなった。


網焼きを実演してくれると言う

僕も見たかったけど、夜の予約が入ってるから準備にかかった。


料理長が地下倉庫から出て来ていた

「ふん!お前は命拾いしたな!」


「はい、本当なら川に飛び込んでる所をお嬢様に声をかけてもらいました」


料理長「んなっ?!バカヤロー!そんな事で死のうとするなよ!俺が悪いみたいじゃないか!

それに実家の商会に戻ればいいだろ?」


「父が愛人とその子どもを囲ってるのでもう実家に居場所がありません」


料理長「なに?ゲイルはどうしてるんだ?」


「兄さんには兄さんの生活があります」


料理長はそうか…と言って静かになった。



外からいい匂いが入ってくる。不思議だ、キッチンはここなのに


リサ「オーナーがお客様と一緒に焼肉してるんだけどぉ!!ズルいわ!凄く美味しそうな匂いなのよ!」


料理長「俺だって見に行きてーよ」


「卓上コンロだって、オーナーが欲しがってた」


夜間の給仕係が予約客の来店を告げに来たが

「予約のお客様が外の焼肉はなんだと言ってます…私は昼間の事を知らないし料理長お願いします説明してきてよ」


料理長「はぁ!俺も知らねーよ、オーナーは?」


リサ「さっきお酒を出したわ、もう無理よ」


料理長「チッ、じゃあお前行けよ見てたんだろ!ケビンが行け!」


「無理ですよ!僕もコンロしか見てませんから」


言い合ってても仕方ないし、リサに押されて料理長と2人で予約の客の所へいくと、予約客以外にも客が来ていた。


予約客「外のあのメニューは?私達もあれがいいです」


料理長「あのぉ、コース料理をご用意してございますが?」


予約客「ならキャンセルする!私達も外であれが食べたい」


どうしよう、こんなことになるなんて…


令嬢「お困りのご様子ですね?」


料理長「うぉ!!なんだ?」


リサ「お嬢様!」


予約客「なんだチビ!」


「ごきげんよう、わたくしはマリーウェザー・コルチーノでございます」


「コルチーノ!嬢!

失礼いたしました、私はダート・ローダーです。子爵家の末弟です」


「あの焼肉は新商品の試食会をこちらのテラスでいたしておりましたの。予告なしに急遽してごめんなさいね?

もしよろしければ、試食会にご参加いたしますか?感想を聞かせてくださる?

ご迷惑をおかけしたお詫びにそちらのキャンセル料理を買い上げますわ。

お酒が飲みたいならドリンク代金だけ各自でお願いしますね?だって私が飲めないのにずるいじゃなくて?」


予約客「伯爵令嬢のご厚意に感謝いたします……やった!みんな焼き肉が無料になったぞ!」

予約客達が勇み足でテラスに向かった


令嬢「匂いにつられて一般客もいらしてますよね?

一般客も試食会に参加したいならドリンク代金だけ取って肉は無料で提供いたしますわ。

あくまで今日だけの試食会と説明して下さる?

最新型のコンロのお披露目ですの

量産体制が整ったら…そうね、本格的な販売は次の夏頃かしら?

…それから空の水差しを下さいな」


そして、言われた通り空っぽのピッチャーを3つ持っていく。

執事が空いてるテーブルにクロスをかけて木のコップを並べて、どこからか氷水を用意して

輪切りのレモンを入れて冷たいレモン水を無料提供しはじめた。


料理長「俺は夢でも見てるのか?氷水が無料?レモン水がすんげぇ美味かった」


リサ「ケビン飲んでみて!新鮮な冷たい水よ!」


リサからもらったお水は冷たくてレモン水の喉越しがとてもよかった



執事「失礼すみません、ちょっとよろしいでしょうか?お嬢様がとんでもないことを言い出しました申し訳ございません」


料理長「今更、肉の代金を払えとは言わないよな?」


執事「いえ、この肉を焼きやすいよう薄切りにして下さい。用意した分が付きそうです」


執事がドンッと20キロもありそうな肉の塊を軽々と出してきて薄切りにしろと言う

料理長と一緒にせっせと薄切りにするけど


執事「もっと薄く切れませんか?まぁ新鮮なのでレアでも食べれそうですが。酔ったオーナーが生焼きのモツを食べ始めてます」


令嬢「その包丁の切れが悪いのよ、刃がかけてて切りにくいでしょう?」


執事「お嬢様!厨房に来てはいけません!小さいから蹴られますよ!」(※執事身長180ちょい、令嬢100ちょい)


「むう!」


執事「ハイハイ、スコット様の所で大人しく座ってて下さい。デュランが酔っ払ってきましたね」


すると騒ぐ声が聞こえてきた

ガチャンパリンと何かが落ちる音が聞こえてきた


執事「申し訳ない、学生同士の喧嘩です止めてきます」


リサが戻ってきて

「割れた音がしたのに割れてなかったわ、それにあの木の器もお嬢様が用意したものですって!

外で飲むと割れるからって、しっかりしてるわ小さいのに」


テラス席がいつの間にか人でいっぱいになっていて、ドリンク代金がレジに積み上がっていく

銀貨と銅貨と金貨まであった


僕と料理長と夜からの料理人がドリンクを次から次に作る。

メロンがまた出て来て、切り方を2人に僕が教える。

2人とも初めて見る果物に驚いていて

捨てる種を舐めて甘い甘いとはしゃいでいた


リサ「この種を植えたら実がなるかしら?裏の土に植えてこようかしら」


深夜まで続くと思われた試食会は以外にも早くお開きになった。

主催のお嬢様が寝てしまったからだ。


小さい子供だもんな、夜まで出歩いてるなんて…

貴族の学生達は夜遊びせずに帰ってしまった。


酔ったオーナーが

「肉が終了しました、完売です!またのご来店お待ちしております」と閉店を宣言した。


本当はまだ営業時間内だけど、酔ったお客が満足そうに帰って行く。

まだ時間も早いから他の店に行くようだ。


散らかった皿やコップをスタッフ総出で片付けて、においに釣られてやってきた客に閉店を告げて片付ける。


リサ「ハァー忙しいし疲れたわ!

あっ、メロンがあるじゃない!みんなで食べちゃいましょ!」


料理長「はぁ?勝手に食べて怒られないか?」


リサ「あのお嬢様寝ちゃったし、オーナーは酔っ払って寝てるもの、もうわからないわよ!

全部出したことにすればいいのよ。それにあのお嬢様はそんな小さな事で怒らないわ。

聖女がいるなら、きっとピンクのリボンをしてるのよ」


料理長「よし、それなら食べよう!俺もちゃんと食べてみたかった。隣国からの輸入品だったか?」


「カレッジで育ててるって言ってた、これから流行るかもしれないね」


リサ「んま!じゃあ流行る前のメロンを先取りしてるのね私達!最高ねぇアハハッ」


みんなで仕事終わりに摘んだメロンと冷たいレモン水は疲れた体に染み渡る美味さだった


翌朝、ピッチャーの氷は溶けて無くなっていたけど、製氷機に新しく氷が出来ていた

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